満里子-22
「洋服の値段はデザイン料なの」
「そんなのなら僕でもデザイン出来る」
「それは見たからよ」
「これを着るとブラジャーなんか出来ないだろう」
「だからしないの」
「ブラブラしないか?」
「これは伸びる生地でしょう? ピッタリ包むから大丈夫」
「それじゃ乳首が見えるんじゃないのか? ポツンって」
「そういうの好きじゃない」
「まあそうだけど、驚いた」
「何が? そんなのいつも着ているじゃない」
「こういうのは僕と一緒の時だけにして欲しいね」
「だから一緒に行くんじゃない」
「一緒に行くつもりなんかなかった癖に」
「つもりはなくたって一緒に行くことになったでしょう?」
「まあいいか」
「何がいいかなの?」
「1人で外出する時は余りセクシー過ぎる服装はいけないよ」
「何言ってるの。1人で出かける時だってセクシーな服を着ろって言う癖に」
「だからセクシーな服はいいけど、セクシー過ぎる服は良くない」
「何で?」
「男に誘惑されるだろう」
「誘惑なんかされない」
「いや、されないけども狙われるだろう」
「狙われたってされないもん。大体私が誘惑されたら嬉しい癖に」
「真面目な話、誘惑ならいいんだけど、襲われたりするといけないだろ」
「タクシーで行ってタクシーで帰って来るんだから襲われる心配は無いの」
「だから普段1人で出歩く時のことさ」
「普段出歩くのは昼間だけ」
「まあいい。それじゃ行くか」
「待ちなさい」
「何?」
「これを穿きなさい」
「ちゃんと満里子の下着を穿いてるさ」
「いいからこれにしなさい」
「それだと小さ過ぎる」
「小さ過ぎない。ほら、こんなに伸びるんだから」
「伸びるからブラブラする」
「伸びるからフィットしてブラブラしない」
「いや、それは伸びるけど柔らか過ぎるからブラブラするんだ」
「それじゃガードルを上から穿けばいい」
「ガードルを穿くとトイレが困る」
「ショート・ガードルだから大丈夫よ」
「ショートでもロングでも股上は変わらないだろ」
「そんなことはないわ」
「まあ透けて見えるよりはいいか」
「そうよ。透けてるのが厭な癖に。そんなこと分かってるんだから」
「だって男の性器は出っ張ってるんだ。そんな透け透けの下着なんかグロテスクでいけない」
「そんなことないわ。素敵よ」
「馬鹿な」
「第一透けてたって誰かに見せる訳じゃないでしょ?」
「ほら、いいからガードルを出せよ」
「はい」
「これは何だ」
「だからガードルよ」
「冗談じゃない。これならガードルは要らない」
「駄目。穿きなさい」
「勘弁してくれよ」
「何が勘弁してくれなのよ」
「そんな真っ赤なガードル穿けるかよ」
「穿けるわよ。脚を入れてごらん」
「いや、物理的な意味じゃない。精神的な意味だ」
「文句言わない。誰かに見せる訳じゃないでしょ?」
「第一これはちっともショートじゃないだろ。ロング・ガードルじゃないか」
「ショートもロングも股上は変わらないわ」
「何だそれは。それは僕が言って満里子が否定したことだったんじゃないか」
「どっちが言ったことかなんて気にしないでいいから、ほら」