ハツミ 〜3rd story〜-5
「コーヒー入ったよ!」
トモキが私の用意したカップにコーヒーを注ぐと、私達はそのコーヒーを手にダイニングのソファへと腰を降ろした。
そしてコーヒーを口へと運ぶと、私達はどちらからともなく出会った日の事を話しだす。。
『あの時は驚いたわ、あんなに可愛い文句で声掛けられたの初めてだったもの。』
「もしかして、ひいた??」
少し気まずそうな顔をしてトモキは私を見た。
『そうじゃないわ。面白そうなこだなぁとは思ったけどね?』
「他には?」
そう訊かれた私は彼と過ごした一日を思いだし、彼に答えた。
『トモキの事が可愛く見えて仕方がなかったわ。』
「今も俺の事は可愛いとしか感じない?」
『クスッ、さっきから質問攻めね?』
私の答えに対して、更に質問を重ねるトモキに私は言った。
「あ、ごめん。俺はさ、初めてハツミを見た瞬間から目が離せなくなっちゃってさ。こんな素敵な人と一緒に歩けたらどんなに幸せだろうな、って思った。」
『他には??』
私が先程のトモキを真似るようにトモキの答えに質問を重ねると、彼は少し苦笑いをしながらも私を真っ直ぐ見つめて答えた。
「実際に一緒に歩いてみたら、一瞬にして恋に落ちた。これからもずっとハツミと一緒にいさせて下さいって神様に願ったね。」
眼差しから、言葉から、彼の心が流れ込んでくるようだ。
私は不意に瞳から涙が溢れるのを感じた。
彼が口にした言葉は私の願いそのものだった。
「気持ち伝える前にハツミのこと抱いちゃったし、順番おかしいかも知れないケド…。ハツミ、これからもずっと俺の隣にいて下さい。」
トモキは穏やかな口調でそう言うと、溢れる涙を抑えられずにいる私の肩をそっと抱き寄せた。
『あっありがとう…。』
私の口から出た言葉は、彼の気持ちへの返事ではなく、感謝の言葉だった。
その後も私の涙が止まる事は無く、私はトモキにきちんとした返事をする事ができなかった。
けれどトモキはそんな私を急かす事もなく、優しく抱きしめてくれていた。
そんな彼のお陰か、私の乱れた心にも少しずち静けさが戻ってきていたが、彼は無理に私から答えを聞き出す事はせずに私の部屋を後にした。
私はそんな彼の優しさを素直に受け入れ、後日きちんとトモキに返事を返す事にした。
「お待たせ!!」
少し息を切らせながら待ち合わせ場所に現れたトモキ。
『お疲れ様。仕事はどうだった??』
「バッチリ!!これからデートだと思うとはりきっちゃったよ!ハツミは?」
私の顔を覗き込む様にして訊くトモキの表情には笑顔があふれていた。
『私も今日が楽しみで仕方がなかった!』
そんな彼につられて私も自然と笑顔になる。
今日私とトモキは、外で夕食を共にする約束をしていたのだ。
「じゃぁ行こうか??」
『ええ。』
トモキは自然に私の手を取り、目的のレストランへと歩き出す。
彼からの告白を受けた次の日、私は仕事の昼休みを長く取りトモキの働く店へと足を向けた。
私がこの場所に来るのは何度目だろう。
最後に来たのは確か3年半前、その頃トモキはまだきっと学生だろう。
今日この日、この時間に彼が店に出勤しているかどうかの確認もせずに来たが、店の前では彼の明るい声が響いていた。
「ありがとうございました〜!またのお越しをお待ちしております!!」
爽やかな笑顔で客の女性を見送る彼。その女性が私と入れ違いに店のドアをくぐると、トモキは私の姿に気付き、驚いた様に目を見開かせた。
『急にごめんなさい、昨日の返事がしたくて。』
私はトモキの前へと歩み寄った。
「すっげー驚いた。………ちょ、ちょっとだけ待って!直ぐに昼に入るから!!こ、小室ぉ〜〜!!!」
彼は驚いた表情を崩さず、慌ててバックルームへと駆け込もうとする。