雨音-1
外は天の底が抜けたようなとてつもない土砂降り。
激しい雨音が響く中、時折遠雷が耳に届く。
学校からの帰宅途中、夕立に遭ってしまった高之は双子の妹・美佐と共に玄関の扉を勢いよく開け、濡れ鼠のまま転がり込んだ。
「もう、高之が早く鍵を開けないから〜っ!!」
そう言って玄関をあがり、風呂場からタオルを持ってくる美佐。美佐は形の良い眉をわずかに吊り上げると、憮然としてツインテールをほどいた。
乱暴に差し出された別のタオルを高之は苦い顔で受け取る。
「だったら、お前が鍵を出せば良かっただろ?鍵を忘れた奴に言われたくないよ…」
顔や頭を拭きながら、高之は美佐の非難の言葉に口を尖らせた。グショグショになったシャツを申し訳程度に絞ると、足下の敷石にぽたぽたと滴が落ちて染みを作る。
美佐は憮然とした表情で頭を拭きながら、やがて堪えきれないと言った様子で悪戯っぽい笑みを浮かべ、自分の鞄のポケットを探り始めた。
「鍵ならほら、ちゃんと持ってるよ」
そう言って猿のキーホルダーの付いた鍵を見せびらかす美佐。
「…はあ、どうしてそう言う嘘をつくかな」
勝ち誇ったような美佐の態度に、高之は深々と溜息を付いた。
「高之と一緒に帰りたかっただけに決まってるじゃない。あ、ほらほら、そのままの格好であがってきたら、玄関がグショグショになるでしょ。ほら、そこで服を脱いで渡してよ」
美佐はそう言って、玄関をあがろうとする高之を止めた。
「お前はどうなんだよ?もう玄関は濡れてるじゃないか…」
「あら?私の裸、見たいの?じゃ、此処で一緒に脱ごうか?」
そう言って、ブラウスの胸元を摘んでみせる美佐。豊かな胸に濡れたシャツが張り付き、薄桃色の肌を透過している。一瞬、高之の視線はそこに釘付けになるが、美佐と視線が絡み、慌てて顔を逸らす。
「…ハア。…莫迦」
高之はそんな美佐のからかうような態度にわざとらしく大きな溜息を付いた。
「む〜〜うっ!!なによ、その態度は!?可憐で美しくて、清純で優しくて、愛らしくてセクシーでナイスバディな美佐ちゃんが、一緒に服を脱ぎましょうか、って言ってるのに、その人を莫迦にしたような溜息は何よ何よ何よ〜おっ!!」
「清純な女の子がそういうことを言うか?…ったく」
そう言って玄関をあがる高之。しかし、美佐は仁王立ちになって高之を阻んだ。
「ふふんだ、呆れたようなことを言ってるけど、ホントは美佐と一緒に帰りたかったくせに。高之のクラス、今日は早く終わったの知ってるんだから。それを、偶然みたいなこと言っちゃってさ…。だから私、高之の顔をつぶさないように、鍵を忘れた振りをして、一緒に帰ってあげたんじゃない」
「知らないよ。僕は掃除当番だったんだ…。偶然だよ…」
目を背けて素知らぬ顔をする高之。
「ふう〜〜ん、ま、良いけどね。…あ、ほらぁっ!そんなこと言ってないで、風邪ひいちゃうじゃない!ほら、こっち来て」
そう言って高之のシャツのボタンに手を伸ばす美佐。高之は邪険にしながらも、美佐のするがままにさせる。すぐ身近に少女の身体の存在感を感じ、少女の吐息に胸をくすぐられたような気がする。
「ほら、動かないでよっ!!」
そう言って、顔を上げる美佐。しかし、視線がぶつかり、美佐は思わず顔を伏せると、たどたどしい手つきでボタンを外していく。
「う〜〜ん、手が濡れてるから、上手く外れないや…」
高之は俯く美佐の額に手を伸ばすと、雨で額に張り付いた髪の毛をそっと払い、冷たくなった頬に手を添えた。
「…何?」
手を止め、あどけない瞳を向ける美佐。高之は美佐の華奢な腰に手を回すと腰をかがめ、その柔らかな唇に自分の唇をそっと重ねた。
「……ん」
瞳を伏せ、高之の身体にそっと手を回す美佐。雨に濡れて冷たくなった身体が、奥から次第に暖かさを取り戻していく。
「……、ん、お兄ちゃん。このままじゃホントに風邪ひいちゃうよ」
そう言って、名残惜しそうに唇を離す美佐。高之は美佐が身体を引くままに任せ、美佐は高之のシャツをそのまま脱がすと、濡れたズボンや下着、靴下を預かり、脱衣所へ向かった。美佐も服を脱いでいるのだろうか、廊下で立ちつくしている高之の耳に微かな衣擦れの音が聞こえる。