雨音-6
その晩、高之は水に溺れる夢を見て目を覚ました。それは夢と言うにはあまりにも生々しいもので、目が覚めても尚、高之はそれが夢であったとは思えず、耳の中に水が入り込んだような気持ちの悪い感触が残っていた。
窓の外では静かに雨が降り続いており、高之はその夢の境界の曖昧さに言いしれぬ奇妙さを感じた。
そして、ふと気が付くと、布団の中にはいつの間にか美佐が潜り込んでいた。裸のまま身体を丸め、安らかな寝息を立てる美佐。美佐がこの様にして高之の布団の中に入り込んでくるのは今日が初めてではなかったが、後味の悪い夢のせいで、美佐の存在すらも今は夢のように思えた。
高之は美佐の存在を確かめるようにその華奢な身体を抱き寄せた。滑らかな肌は指触りがよく、さらさらと赤ん坊のようなお尻は柔らかで、際限なく指が沈むようでもあった。
高之は美佐の身体の感触を楽しみながらも、いつからこの関係が続いているのかとふと思いを巡らせた。
しかし、明確な記憶は存在せず、美佐はいつも高之の側にいて、空気のような存在にも思えた。恐らくその身体を重ねたのもごく自然な成り行きで、理由や動機などは存在しないのかも知れなかった。
そして、それと同時に果てしない既視感も感じ、高之には今の自分が果てしない無限の連鎖に取り込まれ、夢の中にいる、そんな風にさえ思えた。
「僕はいつから子供なんだろう?」
ふと呟く高之。頭の中には昼間の出来事が雑多に甦り、雨音、ピアノの音、そして美佐の言葉が幾重にも重なり合って反響した。
「大人なんて大嫌い…。大人なんて…大嫌い」
…………オトナナンテダイキライ。
終わり。