先輩-2
「私、いろんな期待を翼君にはしてるから…」
気のせいだろか。少し先輩の頬が赤くなっているのは。
「た、例えば……?」
気のせいだろか。俺の鼓動が早くなっているのは。
小さな期待が徐々に膨らみ始め、今にも爆発しそうだ。
「例えば……」
先輩は、俺にバレないように大きく深呼吸をしたけれど、俺にはそれがわかった。
「例えば…私の理想に近づく…とかね」
「え?何ですか?」
俺の耳に入った微かな言葉。それに自信を持たすために、もう一度聞きたい。
でも、それは叶わなかった。
「もう言わないよ〜」
先輩は伝票を持って立ち上がった。
「結先輩。ボクが出しますよ」
「ば〜か。後輩に奢られるなんて、私のプライドが許さへんわ」
先輩は鞄を持ち上げ、レジに向かった。
「鈍感っ」
レジに向かう途中で後を追う俺に、先輩はそう言った。
俺はちょっと嬉しかった。
もしそれが、会計の事じゃなくて先輩の気持ちに気づかない事への言葉だとしたら…。
俺は、さっき微かに耳に入った言葉に、少し自信を持てた。
勘違いでもかまわない。だって俺は、結先輩が好きなんだから。
―完―