耀子-4
「しかし君の電話とは会社が違うだろ?」
「だから何処のメーカーの物でも大体同じです」
「そうか。今の若者は生まれた時から携帯電話に親しんでいるからだな。僕などは40過ぎるまで携帯電話に触った事など無かった」
「はい。今度は私の名前も表示されるからちゃんと出てくださいよ。出られない時は後から掛けて下さいね」
「分かった。耀子というのはこの字を書くのか」
「そうです」
「それで輝くほど美人なんだな」
「また上手いこと言う」
「上手いというほどのこともないさ」
「先生の小説読みましたよ」
「ほう。何と言う作品?」
「『梨花』という作品です」
「ああ、あれか」
「純粋ポルノだなんて謙遜して、あれはポルノじゃないですよ」
「ほう。感じなかったのか?」
「あ、いえ、そういう意味じゃなくて」
「どういう意味?」
「ポルノの場面は凄い感じましたけど、ポルノの場面なんて少ないじゃないですか」
「うーん。あれは若書きでね。僕が小説を書き初めて2作目かそこらの作品なんだ。だからまだ下手だったんだね」
「下手? そんなこと思いませんでしたよ。とても面白かったです」
「有難う」
「最初凄い場面の連続なんでやっぱり仰ってた通りのポルノだなって思ったんですけど、途中から普通の小説みたいになって面白かったです」
「そうなんだ。初めはポルノのつもりで書き始めたんだけど書いてるうちに何時の間にか普通の小説みたいになってしまって、要するにどっちつかずの失敗作だね」
「そんなことありませんよ。解説でも凄く褒められてたじゃないですか」
「君ね。文庫本の解説なんて宣伝の一種だから褒めるのは当たり前なんだ。大抵の読者は解説を読んで面白そうとかつまらなそうとか判断して買うか買わないか決めるんだから」
「そうなんですか?」
「そうさ。だからつまらない物でも解説は一生懸命褒めまくる。文庫本の解説なんかするもんじゃないね。僕もやったことあるんだけど」
「つまらなくても褒めるんですか?」
「そうさ。僕が解説書いたやつはつまらなくはなかった。だけど僕の好きなタイプの小説ではなかったんだ。そういうのを褒めるのは大変だよ。褒めるより以前に読むことが苦痛なんだから。しかし解説する以上読まない訳にはいかない。好みのタイプではない女だけれども一生懸命調子を合わせて話をしているみたいなもんで、つまらない顔を見せないようにすること自体が苦痛なんだ。その上美人だね、可愛いねと褒めなければいけないと来てるんだからもう堪らないよ」
「なるほど。先生はどんなタイプの女性が好みなんですか?」
「顔が美人で体がグラマーでセックスの好きな女性だな」
「だから、どういう顔が美人だと思うんですか?」
「君みたいな顔だな」
「又」
「何が又だ」
「少しも熱が入っていませんでしたよ」
「それは心外な事を言う。どんなタイプが好きかと聞かれたから正直に答えたのに。要するに君が僕の好みのタイプなんだよ」
「私はセックスが好きなんですか?」
「嫌いか?」
「いえ。好きか嫌いかは秘密ですけど、どうして私の事セックスが好きな女だと思ったんですか?」
「僕の好きになった女はセックスが好きでなければいかんからだ」
「何ですか、それは」
「つまり願望だ」
「本気にしてしまいますよ」
「何を?」
「私の事を好きだと言ったんでしょう?」
「ああ。それは本気にしてくれて構わない。本当なんだから」
「本当ですか?」
「そうでなければ誘いの電話も無かったのに又来て指名したりしない」