耀子-34
「SになったりMになったり、その方がいいと思わない?」
「思わない」
「今度そういう小説書いてみたら?」
「思いもしないものは書けない」
「とか言いながら私に抱き付かれて立っている」
「裸で抱きつけば立つさ」
「ああ、楽しくて仕事を忘れていた」
「早く行って早く帰って来い。いや、帰りは迎えに行ってやる」
「店に?」
「ああ。閉店の30分くらい前に行って君を指名してやるよ」
「もっと早く来て頂戴」
「それじゃ一時間くらい前」
「それでうんといちゃついて楽しもうね」
「店ではそういうことをやらないでと言っていたんじゃないのか?」
「そんなこと言いません。それは別の小説の話しでしょ。小説と私生活を混同しては駄目よ」
「そうだったか。しかし自分が書いている小説と同じような私生活が出来るなんて男冥利につきる」
「此処からなら近くて通うのに便利でいいわ」
「と言ったって辞めるんじゃないか」
「辞めるの、よそうかしら」
「そんなこと言ってると出勤する前に浣腸してやるぞ」
「スッキリしてから仕事に行けというの?」
「そうじゃない。店でウンコ垂れるようにという意味だ」
「馬鹿」
「さっき飲んだジュースに下剤を入れておいたから浣腸しなくても同じだ」
「そんな脅しを言っても駄目です。先生だってそのジュース飲んでたじゃないですか」
「ちよっと便秘気味だから」
「嘘。先生の入った後のトイレに入ったらうんちが便器の中に飛び散って汚い事。下痢なんだわって思った」
「君は妙な所を観察しているんだな」
「観察しなくても見えます」
「遅かったのね」
「丁度一時間前だろう」
「もっと早く来てもいいのに」
「それで辞めることは言ったのか?」
「ええ。今月いっぱい働いてから辞めてくれって言われちゃった」
「そうか。仕方ないだろうな」
「あと一週間だから我慢してね」
「ああ。一週間だから毎日こうして迎えに来てやろう」
「本当?」
「ああ」
「嬉しい。何だか仕事というより遊びみたい」
「それで結婚のことだけれども」
「何? やっぱり気が変わったの?」
「何だ、やっぱりというのは」
「いえ。結婚がどうしたの?」
「君はまだ未成年だから親の承諾が無いと結婚出来ないんだ」
「それで?」
「だから君の両親の承諾は取れるだろうか」
「取れるわよ」
「そうか? そんなに簡単にはいかないだろう」
「どうして?」
「だいぶ年が違うからな」
「そんなことか。先生と結婚することはもう話してあるわ」
「話してある? それで何と言っていた?」
「そうって、それだけ」
「随分冷たいんだな。余り関心が無いみたいに聞こえる」
「そんなことない。ちゃんと先生の事説明して本も読んで貰ったもん」
「SMの小説?」
「まさか。そういうのが出てこない奴」
「そうだろうな」
「それで、そんな人なら申し分ないって賛成してくれたの」
「それじゃ一度一緒に挨拶に行かないといけないな」
「うん」
「そしたらキリを付けるために引越しは仕事を辞めるまでの間に済ませてしまえよ」
「そうね」
「それで仕事を辞めたら専業主婦だ」