耀子-30
「何じゃあ、その恰好は」
「おかしいですか?」
「おかしくはないが高校生みたいだ」
「何で? ミニスカートだから? ミニスカートなんて高校生でなくたって穿きますよ」
「そうだけど、そんな恰好すると君は若いなあ。まだ高校生といくらも違わない年頃だったことを忘れていたよ」
「そうですよ。まだ高校出てから一年も経ってないんですから」
「しかしその恰好だったら僕は君を口説かなかったな」
「こういう服装は嫌いなんですか?」
「いや、服装はいいんだけど、余りにも若く見えるから」
「それじゃ着替えますか?」
「まあいい。仕事着なんだから」
「仕事着? お店に行く時はこんな服着ませんよ」
「いやいや。これから君の服を作るという仕事をするんだろ?」
「まあ」
「何を驚いている」
「そんなに待ち焦がれているんですか?」
「そうさ。ミシンは持って来ただろうな」
「持って来ましたよ。これです」
「これ? 随分軽いなあ」
「何で?」
「ミシンなんて昔子供だった頃に家の中にある奴しか触ったことがないが、昔のミシンというのはベラボウに重かったんだ」
「そうなんですか」
「こんなに軽いとちゃんと布が縫えるのかと不安になってしまうな」
「別に重さで縫う訳じゃないですよ」
「それはそうだが」
「私、先生の言っていたような服を持っているから見本として持って来ました」
「ほう、どれかね。見せてくれ」
「これなんですけど」
「これは駄目だよ。全然イメージが違う」
「だからそれは素材が綿だからでしょ?」
「それにこれはゆったりとし過ぎている」
「だから単なる見本です。先生の選んだ生地でこれのピッタリした奴を作ればいいんでしょ?」
「そうだな」
「でも、こういう服は余り実用的ではないんですよ」
「どうして?」
「トイレの時に困るんです。上まで脱がないとトイレが出来ないんです」
「それはそうだな。しかし実用的な服を作ろうというのではないんだから、それでいいんだ」
「トイレで困るのは先生じゃありませんからね」
「君、お洒落というのは暑い寒い、着心地が悪い、不便だなどと言っていたら出来んのだよ」
「はいはい」
「それじゃ早速作ってくれ」
「はいはい」
「なかなか手際がいいな。本格的に習った事があるんだな」
「ええ、お母さんに習ったんです」
「いいお母さんがいて幸せだな」
「はい」
「君の持ってきた服を整理しておいてやろうか」
「後で私がやるからいいですよ」
「しかし暇だからやってやるよ」
「やっても同じ事だから」
「それはどういう意味だね」
「そういうことって私なりに整理してやらないと気が済まないから結局私が全部やり直すことになるっていう意味です」
「ほう。妙な性癖を持っているんだね」
「別に妙な性癖じゃありませんよ」
「それじゃ僕は何していたらいいんだ?」
「お仕事でもしてればいいじゃないですか」
「僕の仕事は頭の中を厭らしい妄想でいっぱいにしないと出来ない」
「それなら普段のままじゃないですか」
「何?」
「冗談ですよ。厭らしい妄想で頭をいっぱいにして仕事をして下さい」
「しかしこの高校生のような姿をした君がいると厭らしい妄想が湧いてこない。僕は子供に対して性的妄想を抱くことがないんだ」
「別に私を見なければいいじゃないですか」
「そんなこと言ったって同じ部屋にいて見ないという訳にはいかない」