耀子-28
「冗談だよ。シーツなんかに僕は興味が無いから何でもいいんだ。何だったら特注して君がウンコ垂れている写真をプリントした奴だっていい。そこに寝ればぐっすり眠れるだろう」
「そんなこと言ってると先生が寝てから先生の体の上にウンコしてやるから」
「そうか? したいんだったらウンコでもおしっこでもしてくれ。そういうのを経験するのも僕の仕事には必要かも知れない」
「冗談ですよ。眠った人の体の上でそんなこと出来ますか」
「眠ってなければいいのか?」
「暫く黙っていて下さい」
「何で?」
「折角お部屋の模様替えが出来ると思って頭の中であれこれ楽しい事を考えているのに先生と話していると夢が汚らしくなって幻滅してしまう」
「安い夢だな。そんな程度でいいんなら半年毎に1回くらい夢を見させて上げるよ」
「本当?」
「本当だよ」
「嬉しい」
「今度は抱きつかないのか」
「抱き付いて欲しいんですか? 抱き付けば恥ずかしがるくせに」
「恥ずかしくはないさ。さっきのは突然だから驚いただけで恥ずかしがったのではない。家の中にいる時も外にいる時もいつも蛇が巻きつくみたいに抱き付いていて欲しいね」
「こんな風に?」
「よしよし。可愛い奴だ」
「みんな呆気に取られて見ていますよ」
「それは君のパンツが見えてるからだ」
「え?」
「馬鹿だな。そんな脚を上げれば見えてしまう」
「あんまり嬉しくてはしゃぎ過ぎました」
「まあいいさ。見せても減るもんじゃなし」
「別に知ってる人でもないですし」
「知ってる人に見られたら厭か」
「それはそうです」
「まあそうだな。何を見られてもそいつとはもう2度と会うことがないと思えば気が楽だ。旅の恥はかき捨てみたいなもんだ」
「此処に入りましょう」
「此処は何屋さんだ」
「生地屋さんです」
「シーツも売っているのか?」
「いいえ。既製のシーツなんてつまらないから生地を買って私が作るんです」
「そんなことが出来るのか」
「出来ますよ。シーツなんて直線縫いだから簡単」
「ということはミシンが使えるんだな」
「使えますよ、ミシンくらい」
「偉いことだ。人は見かけによらないなあ」
「馬鹿にして」
「いやいや。今はミシンを使える人なんて少ないんじゃないのか?」
「自分で作る時代ではなくなってしまいましたからね」
「そうだ。だから偉いことだと素直に感心してるんだ」
「洋服だって作れますよ。洋裁は得意なんです」
「僕がデザインすればそれを作れる?」
「ええ。余程変わったものでなければ」
「それじゃ今度僕のデザインで作って貰おうか」
「先生こそ洋服のデザインが出来るんですか?」
「いや、絵を描くのは苦手だからこんな奴と口で説明する。それを君が作るんだ」
「どんな奴ですか?」
「そうだな。生地屋に来ているんだから生地を買って行くか」
「どんな生地?」
「その服のような生地」
「これはビニール・レザーだから売ってないと思いますよ」
「そうなのか」
「でもポリウレタン加工のしてある生地ならあるかも知れない」
「ポリウレタン加工してあるとそれに似てるのか?」
「そうですね。遠くから見れば似てますね。それが無かったらサテンの生地でもいいし」
「良し。そう聞いたらここに来たのが途端に楽しくなった」