耀子-22
「そうですか。やっぱり作家だとそんな風に言葉に敏感になるんですね」
「どうかな。言葉に敏感だから作家になったんじゃないのかな。原因と結果が逆のような気がする」
「なるほど」
「尤もポルノ作家が言葉に敏感だなどと偉そうなことを言ってはいかんな」
「あら。ポルノ作家だって作家ですよ」
「そうか。嬉しい事を言ってくれるね。君の場合は皮肉でなしにそう言っていることが分かるから嬉しいよ」
「皮肉でそんなことを言う人もいるんですか?」
「まあ、普通の人がそんなことを言えば大体皮肉だ」
「そうでしょうか」
「ああ」
「先生はもっと御自分の職業に誇りを持たないといけませんよ」
「君にそう言われたのはこれが2回目だな」
「そうですか?」
「うん。今は君の言葉が素直に聞ける」
「それじゃ自分の職業に誇りを持とうと思ってくれるんですか?」
「実は僕は誇りを持っていないことはない。誇りという程でもないけど、少なくとも卑下してはいない」
「そうですか」
「だけどポルノ作家は卑下したくらいの方がいい作品を書けるんじゃないかという気がしている」
「どうして?」
「そういう気持ちが作品に隠微な色合いを添えるんじゃないだろうかと思うんだ」
「そうなんですか?」
「だって僕の作品を読んでそう思わないか?」
「どう?」
「ポルノとしては余りにも明るく幸せ過ぎて何か物足りないという感じがしないかな」
「さあ、別にそんなこと感じませんけど」
「そうか。君は女だからな」
「男は違うんですか?」
「男はやっぱりポルノにはもうちょっと陰湿な妖しい雰囲気を望むもんではないかと思うな」
「それは専門的なことだから私には分かりませんけど」
「うん。男は明るく楽しいセックスもいいけど、何か人には知られたくないようなおどろおどろしい、気持ち悪くて気味悪いようなものを求める傾向があるんだ。そういうものでないと厭らしいという感じがしないだよ」
「そうかしら」
「だからそういう服を着せたりする」
「人に知られたいからこういう服を着せて一緒に歩いているんじゃないですか」
「いや、それが違う。人に見られると恥ずかしいから見られたくないという気持ちはあるんだ。それを押し切って見せているから恥ずかしいと思うし、何かいけないことをしているという意識も生まれる。そういう恥ずかしさとか後ろめたさがあるからこそ興奮する。初めからそんな服装が全く当たり前で何とも思わないというんなら、そういう服を着た君と一緒に歩いたからと言って特に楽しくなる筈が無いんだ」
「難しいんですね」
「そう。人間の心理は鬱屈していて複雑だ」
「でも恥ずかしいという気持ちが全く無いと確かに厭らしさというのは無いかも知れませんね」
「君もそう思うか?」
「ええ。この間私友達と一緒に出かけたんです。女の子ですよ」
「子供か?」
「いいえ。私と同い年の女の子」
「ほう。それで?」
「待ち合わせの場所に来た彼女を見てびっくり。だって彼女白いパンタロンを穿いていたんですけど、それがピッタリとフィットしていて凄くお尻が綺麗に見えるの。だけどパンティが全く透けて見えていたんです」
「ほう」
「そういうパンツだから勿論Tバックの下着でしたけど、それが透けて見えてるんです。だけど彼女は透けてるなんて知らないもんだから堂々としている訳。そうすると透けて見えるのがそういうファッションなのかと思ってしまって厭らしい感じがしないんです。彼女が透けているのを知らない筈がないと私は思ったし」
「そうだな」
「だけど通りすがりの男の人が『姉ちゃん、おパンツが透けてるよ』って言ったんです。それで彼女気になってウィンドーに写して確かめたの。それで初めて本当に透けてることに気づいたのね。そしたら彼女の態度が急に何か変わってしまって、それからは彼女がとても厭らしく見えて来たんです」