耀子-21
翌日は紀夫が一人で出掛けて白いエアロビクス用の全身タイツを買って来た。これを裏地を取り去ってしまったワンピースの下に着たのである。コスプレそのものといった恰好になってしまったが、全身がまるで透けて見えるよりはいい。そして二人して買い物に行き、耀子は買った服と早速着替えた。袖なしのワンピースだが、銀色のビニール・レザーで出来ており、耀子が着ると胸が大きすぎてジッパーが上がらない。仕方ないので胸のジッパーをかなり下げているから胸の谷間が大きく顔を出している。谷間というよりも両脇から押されて中央に寄った二つの乳房のそれぞれ横半分が覗けているという感じである。しかしそれこそが正に紀夫の目論見だった。
「そういうのを着れば胸が大きすぎるというのが欠点ではないことが良く分かるだろう」
「昼間からこんなに胸を出して恥ずかしい。色気違いだと思われてしまう」
「恥ずかしいことはない。勝手にどうとでも思わせておけ」
「色気違いだと思われるのは先生じゃなくて私ですからね」
「そんなことはない。こうして一緒に歩いていれば誰でも僕の好みでそういう服を着ていると思う」
「そう思ってくれるんならいいんだけど」
「だからそう思って貰うためにはもっと僕とベタベタして歩かないといけない」
「こんな感じですか？」
「そうだな。余は満足じゃ」
「年寄りだ年寄りだと普段は言うくせに、年寄りが街中でこんな風にされて喜んだりしていいんですか？」
「いいんだ。年寄りの癖にあんな美人の若い女に持てている。きっと人徳があるんだろうなと人は思ってくれる」
「それだったら余り鼻の下を伸ばさない方がいいですよ」
「鼻の下が伸びてるか？」
「ええ。もう、さっきからにやけていて顔が崩れっ放し」
「にやけていると言ってはいけない。にこやかな顔だと言うんだ」
「私お腹がすいた」
「昨日大量に出したからな」
「そんなこと関係ありません」
「しかし浣腸してスッキリしただろう」
「そういうことにしておきます」
「スッキリしないか？」
「スッキリしたと言うと又やらせろって言うから」
「浣腸は厭なのか？」
「空気を入れたりするのは厭です」
「そうか？ あれは実に面白かったじゃないか」
「ちっとも面白くない」
「それじゃ空気は無しにしよう」
「それならいいです」
「もうちょっと買い物してから食べに行こう」
「何を買うんですか？」
「下着とかパンストとかネグリジェとかいろいろ目に付いた物を買っておこう」
「それじゃ取り敢えず下着を買って下さい。あとの物は食事してからゆっくり買い物しましょうよ」
「そうだな。取り敢えずノーパンでは落ち着かないか」
「ええ。私覚悟を決めて来たというのに替えの下着を持ってこなかったなんて馬鹿でした」
「いや。それでいいんだ。全てこれからは僕が僕の好みで買うから」
「はいはい」
「何だそれは。何か不服なのか？」
「いいえ。不服じゃなくて嬉しいんです」
「それなら返事は一つでいい」
「微笑ましいと思ってつい二つ返事してしまったんです」
「微笑ましい？ 何が？」
「先生が子供みたいだから」
「何が子供みたいなんだ？」
「だって気に入ったおもちゃは人に触らせないぞという感じ」
「そんな感じ？ 良く分からないな」
「だって私が着る服なのに私自身にも自由にさせないぞっていう感じなんですもの」
「ああ、なるほどね」
「でも嬉しいですよ」
「僕は言葉を商売にしているから気になるんだが、はいはいというのも二つ返事と言うのかな」
「言わないんですか？」
「さあな。後で調べてみるけど、普通は二つ返事というのは快く即座に承知するという意味だから、はいはいというのはちょっと違う気がする」