耀子-16
「初めからビニールを敷いてやれば良かったのに」
「そうするとそこで排泄させてトイレには行かせないということが分かってしまうだろう?」
「騙し打ちにしたかったんですね」
「そうじゃない。トイレに行かせないなら厭だとゴネるのを恐れたんだ」
「何でも好きな事をやって下さいと言ったのに」
「そうは言ってもイザとなると嫌がるもんなんだ」
「そうですね。先生は嫌がるようなことを殊更するのが好きだから」
「どうしてそう思う?」
「先生の小説を読めば分かります。それにさっきだって空気を浣腸したじゃないですか」
「ああ、あれか。あれは面白かったな。ウンコが勢い良く飛び散って後始末が大変だったけど、あの連続的爆発音は僕の耳に焼き着いている。録音したかったが録音しなくても忘れようがない」
「止めたくても止まらないから焦りました」
「オナラをか?」
「ええ」
「それは止まる訳がない。ウンコだけ出して空気は出さないなんて芸当は誰にも出来ないさ」
「でも正直言って感じました」
「そうだろ。恥ずかしいと余計感じるもんなんだ。今度はオムツをして外で排泄するのもやってみよう」
「えー?」
「匂いも音も漏れるから見えなくても恥ずかしいぞ。死ぬほど恥ずかしいだろうな。一緒に歩いている僕まで死にそうなほど恥ずかしくなるぞ」
「それならそんなことしなければいいのに」
「いやいや。だからこそやってみたい」
「先生はそんな恥ずかしいことが我慢出来るんですか?」
「まだやったことがないから分からない」
「先生の名前に傷が付きますよ」
「馬鹿言っちゃいけない。僕はSM作家なんだ。そんなことをしても名前に箔がつくだけで傷が付くなんてことは無いさ」
「ああもう、好きな事をやって下さいなんて言うんじゃなかった」
「もう遅い。それにやってみれば案外面白いかも知れないじゃないか。匂いだって外にいれば広がって薄まるし、音もオムツにくぐもって人には分からないかも知れない」
「分からない訳ありません」
「そうかな」
「そうです。オムツなんかして排泄させるんだったら、その瞬間は先生に抱き付いてお尻をくねらせながら出します」
「なんで?」
「そうすれば目立つからみんな見ます。みんなが見てる所で盛大な音を立てて出します。先生は抱き付かれてるから逃げる訳には行きませんよ。一緒に恥ずかしい思いをして貰います」
「うーむ。君は実際そんなことをしたことがあるんじゃないのか?」
「ありません。ある訳ありません」
「そうか? 抱き付かれて盛大な臭いと音を出されたら僕は本当に死ぬな、恥ずかしくて」
「どうでしょうか」
「ところで、今日は仕事を休んだんだろう?」
「はい」
「それじゃ明日は昼から二人で買い物に行こう」
「私は此処に泊っていっていいんですか?」
「勿論だよ。何ならこれから死ぬまで此処に泊ったっていいんだよ」
「死ぬまでって、どういう意味ですか?」
「つまり一生僕と一緒に住もうと言ったのさ」
「ああ、驚いた」
「何が?」
「責め殺すみたいなことを考えているのかと一瞬思いました」
「まさか。僕はそんな乱暴なことはしないさ」
「そうですよね。そんな人じゃないと思ったから此処に来たんでした」
「そうだろ。僕の事は僕の作品を沢山読んで分かっている筈だ」
「はい」
「それで、どうするね?」
「何がですか?」
「だから、ずっとこのまま此処へ泊ることにするかどうかさ」
「ああ。それは何時かはそうさせて貰うかも知れませんけど、取り敢えずは今晩だけということにさせて下さい」
「いいよ。そういうことは僕は強制しないから」