耀子-12
「先生の小説か別の人の小説か忘れましたけどそんなことが書いてありました」
「そうか? しかし小説には書かないこともある。今それをやっているんだ」
「何をやっているんですか?」
「つまり薬品以外に空気も沢山入れている」
「え?」
「するとどういうことになるか分かるか?」
「分かりません」
「排泄が始まれば分かる」
「どうなるんですか?」
「オナラが沢山出る」
「厭あ」
「ブッブッと出るかブヒブヒと出るか、それともブビャーと出るか、それは君のお腹の中の便の状態によるな。硬い便ならブッと出るだろう。柔らかい便だと空気と混ざり合ってブビビビーと鳴るだろう」
「厭あ」
「厭あと言っても既に入れてしまった。後は出るのを待つだけだ」
「オナラなんて厭」
「ただの浣腸なら覚悟しているだろうから、覚悟していない浣腸をしてやったんだ」
「先生の悪趣味」
「さあて、君のクリトリスを舐めさせて貰うよ。と言っても僕のクリトリスなんて無いんだけど」
「キャー」
「どうした。クリトリスを舐められるのは初めてという訳でもあるまい」
「許して」
「何を?」
「も、もう行きそうです」
「随分早いな」
「もうこんな恰好にして縛られただけで感じてましたから」
「行きそうならいつでも行っていいよ」
「お願いだから先生のを入れて下さい」
「それは入れるけれどもまだまだ先の話さ」
「先生、お願いですからビニールを敷いて」
「何? もう出るのか?」
「出そう」
「今入れたばっかりじゃないか」
「でも出そう」
「それは大変だ。ビニールを敷くまで我慢してくれよ」
「早く、早く」
「年寄りを急かすなよ」
「早く、もう出る」
「便意というのは陣痛と同じで間歇的に襲ってくるんだ。だからもうちょっと我慢していると一旦便意が遠のいて行く」
「そんな悠長なこと言ってないで早く」
「ナニ、僕自身は浣腸されたことが無いんだが、浣腸してやったことは何度もあるから知っているんだ」
「もう駄目。本当に出る」
「え? 本当に出るのか?」
「出る、出る」
「ちょっと待て。今ビニールを広げるから」
「あー」
「あー」
耀子の「あー」は我慢できずに出してしまったからであり、紀夫の「あー」はビニールを敷くのが間に合わなかったからである。空気を沢山入れていたから派手な音と共に勢い良く糞便は吹き飛んだ。2メートル以上の長さがある座卓の端を飛び出して床のカーペットに糞便が落ちた。紀夫は大慌てでバケツに水を汲み、雑巾で拭き取ったがカーペットの染みは取れない。洗剤を水に溶かして染みの部分に垂らしたから時間が経てば大分綺麗になるだろう。たっぷり洗剤の溶け込んだ水を垂らしたからその部分にはトイレツト・ペーパーを幾重にも折りたたんで敷き、その上に更に新聞紙を敷いた。そうしないと新聞紙のインクがカーペットに移ってしまうからである。
そんなことをしていたから、目隠しをされて裸で縛られたままの耀子は30分も放置されていた。紀夫がようやく一息ついて耀子の様子を見ると、素っ裸で大の字に縛られたまま耀子はクスクスと笑っていた。目隠しされて見えなくとも、紀夫が慌てて掃除している様子は分かったのだろう。何しろ風呂場と座卓との間を小走りに何度も往復して、知らないうちに「あーあ、これは落ちないな」などと呟いたりもしていたのである。