耀子-10
「何時から自分の性癖というかMの素質に気づいた?」
「やっぱりその縛られた経験をしてから薄々そうかも知れないとは思い始めていたんです。はっきりそうだと分かったのは先生の小説を読んだ時です」
「『梨花』のことかい?」
「そうです」
「あれを読んで興奮したと言っていたけれども本当だったのか」
「ええ本当です。電気ショックを受けたみたいに感じてしまいましたから」
「ほう」
「実を言うとあれからSM小説や雑誌を沢山買って読みました」
「ほう」
「先生の小説も沢山読ませて貰いました」
「ほう。それは有難う」
「それで一口にSMと言ってもいろいろあるということが分かりました」
「そうだな。SMと言っても確かにいろいろあるな」
「ええ。で、私は先生の書いた小説が1番私に合っているということに気が付いたんです」
「本当かい?」
「本当です。だから私は先生とお付き合いしたいんです」
「良し。そこまで言われれば僕の方には厭だという事情は全く無い。相手が君だったら土下座しても口説きたいくらいなものなんだ」
「土下座なんかしなくても、もう私は口説かれに来ているじゃありませんか」
「それならせいぜいロマンティックな舞台を演出したいからシャワーを浴びて来てくれないか。僕はその間に準備する」
「はい」
「僕も礼儀としてシャワーを浴びてくるからそこのソファーに座ってこれでも見ていてくれないか」
「それは何ですか?」
「インターネットのアダルト・サイトからダウンロードした夥しい数の画像の中から僕が特に気に入ったものをプリント・アウトしてスクラップ・ブックに整理したものなんだ。必ずしもSMの写真ばかりではないが、大部分はSMのものだ」
「それじゃ拝見します」
「どうだった?」
「凄い写真ばかりですね」
「ああ。だけど僕の気に入ったものを集めたと言ったけれども、滅多に見られないような凄いものは気に入らなくてもそこに入れてあるんだ。だから恐ろしいと思わなくてもいいよ」
「この性器を縫いつけた写真でしょう?」
「ああ。それとかピアスを入れている瞬間というか、ピアスを入れていく過程を写したものがあるだろう」
「ええ、ありました」
「ああいう血が出ているものは僕の好みではないんだけれども、まあ、珍しいからそこに入れてある」
「外国のものが多いですね」
「そうなんだ。日本のSMの方がやはり僕の好みには合うんだけども、残念ながら日本のSM関係の画像は殆どが有料サイトばかりでね」
「と言うとこれは全部無料の写真なんですか?」
「そうだよ。金を使わなくてもそれだけの画像が集められる」
「凄いですねえ」
「うん。だけどさっきも言ったけど、やはり日本人の僕には日本のものの方が好みに合うんだな。例えば縛り方一つ取っても外国の物と日本のものとは違う。縛るロープも違うし、縛るスタイルも違う」
「それで先生の好みはどれですか?」
「それは説明するよりも実際にやらせて欲しい。やっている内に君の反応によっていろいろ考えが変わるかも知れないし、要するに僕がSで君がMだからといっても、僕が一方的に押し付けるものであるとは思っていないんだ」
「はい。で、どうしたらいいんですか?」
「あれが君の為に用意した舞台なんだ」
「あれは座卓なんでしょう?」
「そうだ」
「随分大きな座卓ですねえ」
「ああ。あれだけ大きい物はお寺か田舎の旧家にでも行かないとなかなか見られない」