亜美-34
「僕は可愛い顔では無いと思います」
「顔のことを言ってるんではないの」
「やっぱりそうでしたか」
「やっぱりって?」
「いえ、赤尾さんからも性格は褒められたけど顔は褒められなかったんです」
「ああ、あの女性ね。一緒に取材していた」
「ええ」
「彼女、貴方のことが好きなのよ」
「いえ、僕と同じですよ。同僚として好意は持っているけど個人的な感情とは違うって言ってました」
「何言ってるの。そんな人がオチンチンをぎゅっと握ったりするもんですか」
「え?」
「見たわよ、ちゃんと」
「見たんですか」
「そうよ。すれ違いざまに握っていたじゃない」
「ええ、驚いたけどあれはああいう雰囲気の場所だったから」
「ああいう雰囲気って?」
「だから貴方と田原さんの凄いプレイを見た直後だったから」
「お互いに相手を変えてセックスした後だったでしょ。尤も彼はセックスは出来ないんだけど」
「はあ」
「だから余計彼女は嫉妬したんでしょうね。それが分からないの?」
「嫉妬心ですか? それは無いと思うけどなあ」
「鈍感なのねえ。でももう今から分かっても遅いから分からなくていいんだけど」
「もう遅いでしょうか」
「彼女に未練があるの? 好かれてると分かったら今から彼女にアタックしたくなった?」
「いえ、別にそんなことは有りません」
「本当? 本当かしら」
「ええ、本当です。赤尾さんに野心を燃やそうなんて思ってませんよ」
「でもあの人いい体していたわよ」
「そういうことなら貴方の方が遥かに上を行っている」
「私の体の方があの人よりもいい?」
「ええ、もう比較にならない。赤尾さんも運動選手みたいでいい体だとは思うけど、貴方のような女らしいと言うか、女性の魅力そのものといった体つきとは比較になりません」
「顔は?」
「顔は僕が言うまでもないじゃないですか」
「いいえ、貴方の言葉で聞いて見たいの」
「貴方ほどの美人はそうザラにいませんよ。僕が生まれて以来見た最も美人の女性が貴方です」
「本当?」
「ええ、本当です。多分今後も貴方以上の美人には出会わないでしょう」
「有難う。それならもう忘れて頂戴ね」
「貴女のことをですか?」
「馬鹿、何言ってるの」
「は?」
「彼女のことを忘れて頂戴と言ってるのよ」
「ああ、赤尾さんのことですか?」
「そうよ」
「彼女の事なら特に意識していないから忘れるも何もない。僕は貴女のことを忘れろと言われたのかと思った」
「何で私の事を忘れなければいけないの?」
「さあ。何でと言われると良く分からないけど、こんな美人といつまでも付き合っていられる訳がないからと言うか、要するにいつまでも付きまとったりしないでくれという意味だと思いました」
「私が貴方を振る訳がないでしょ。こんな入れ墨までしたというのに」
「え?」
いつのまにか隷女亜美という入れ墨は誠司の為に入れたことになってしまっている。Mという人種は思い込みが激しいのだろうか。こんな美人に思い込まれたのなら幸せな限りである。