フォルテとアンダンテ-5
「ああ、緊張したなあ。でも、気分はさっぱりした。もうあのフォルテの馬鹿野郎とも合わなくて済む。これからは海の向こうの帝都で贅沢三昧だ」
自室に帰ったアンダンテは征服を脱ぎ捨てていつものだらしない服装に戻っていました。
大男はくすくす笑って、先の焦げた杖を放り投げて、自分も興行師の服装に着替えました。
「帝都の玩具屋で花火を買うのは仕事柄珍しくないが、力のある見栄えの派手なものは探したよ」
「あの爺さん、上手くやったな」
「腐っても元売れっ子俳優だ。殺され役ばっかりだったけどな」興行師は笑います。
「とにかく、王位継承が決まらないで王が死んだか、重病になった場合、決められたまとまった金が入る。それだけあれば、十分だ」
その時、アンダンテの部屋のドアがガタンと蝶番ごと破れ、全ての大臣たちがなだれ込んで来ました。全員が見たことも無い鉄でできた機械を持って、アンダンテと大男を囲みます。その立ち回りは訓練を重ねた澱みないものでした。
一歩遅れて、本当に穴だらけになって血の塊となった老人を農業大臣が床に放り投げ、どさりと重い音が響きました。そして、全員が深い緑色の軍服を着ていました。
つかの間の静寂の中、やはり深緑色の制服を着て、金や銀の筋の入った階級章を身につけた長身の男が床を鳴らして入って来ます。
それは凍ったように冷徹な表情を浮かべた兄、フォルテでした。
「……世の中には隠さなくてはならないことがある。喋ってはいけないこともある。わかるな、アンダンテ」
フォルテの片手には、やはり小型の黒い機械が小さな口を開けてアンダンテを狙っていました。
アンダンテはあっけにとられながら声を震わせました。
「物語から、適当に考えたんだ、本当なんだ。演技は、ここにいる友人に習った。それよりこれはどういうことなんだ?兄さんは何者なんだ。大臣たちも」
フォルテは小さく舌打ちをして言いました。
「無知って言うのは嘘をついているのと変わらないんだよ。子供の頃から散々教えたのにな。残念だよ、アンダンテ。せっかく上手くやってきた長年の計画がご破算になってしまった。これからは残念ながら鉄と血の世界に逆戻りだよ、アンダンテ。残念だが、お前は第一級の犯罪を犯した」
フォルテの右指に、それはそれはゆっくりと、力が加わってゆきました。
Fin.