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君と僕との狂騒曲
【ショタ 官能小説】

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君と僕との狂騒曲-36


 前にも書いたけど、この街は日本一の読書天国だ。「かもめのジョナサン」がヒットしたときには、中央図書館には30冊ぐらいキープしてあった。

 そこで、僕と君はちょっとふざけた悪戯をしてみたくなった。まず不可能だと思われるリクエストをしてみたのだ。
 それはサルバドール・ダリの豪華限定本で、世界限定300部、日本円で10万円ぐらいだったろうか。君と僕は二人でリクエストをして、クボちゃんとモリーを脅迫してさらにリクエストを増やした。

 まさかと思ったが、本当に届いてしまったのだから凄い。厚みが10cm、AB版、金の箔押しの上に銀の箔押し、画像は斜めから見たらインクが盛り上がっている、恐らくオフセットではなく、「グラビア」という凹版で刷られたものだった。いったい何色使われているかは不明の、それこそ「豪華絢爛華麗優美」最上級の超希覯本だった。また、多くの絵は見たことのないダリの新作で、「サルバドール・ダラー」(要するに拝金主義に堕落したという皮肉が込められている)ならではのニューヨークでの生活を反映させた作品集だった。

 君と僕じゃないとほとんど誰もありがたがらない世界に、僕らは没頭した。

 かつてローマがそうであったように、武力で勝ちながらも文化でマケドニアに飲み尽くされたのが他ならぬ君だった。違うかな?
               *
 もうそこまで高校受験が迫っているのに、僕はまだ漠然としていた。将来がどうのという気分には僕はとうとうなれなかった。そうやって学歴が優秀だった男(父親)に、どんな運命が待っていたかを僕は良く知っている。それに、僕にはもう教育なんて必要ないんじゃないかという気持も強かった。

 人から教えられる教育より、自分で探求する、あるいは盗み出す巧妙な技術を僕は持っていたからだ。最終的には、まさにそれを究極とする学校に行くことになるのだが、まだ僕には手がかりのない漠然とした気分だけ残っていた。

 君は手堅い、というか、一流どこの大学を目指せる学力がありながら、そこそこに優秀な都立校を目指した。大学は、例えば独協大学やICUみたいに、英語が出来ればそれだけで入学できる大学もあったしね。不思議なのは君ほどの知力がありながら、数学が16点なんてのは不可解だ。君はいろいろな問題や選択肢をまぎれもなく「数学的」に処理していたのだから。
               *
 最後の中学生の冬、君は長袖のワイシャツしか身につけてなかった。しかも震えながら腕を組んでいる。僕の問いに君は答えたね。

「ワイシャツの下に下着を着ないって決めたんだ」

「なんで?」

「そんなこと」君は水に濡れた犬みたいに震えて、

「そんなこと、解らないよ」と言って、身体を丸めていた。

 僕はとなりの席に俯せになり、君を仰ぎ見た。

「暖めてあげたいな」と、小さく囁く僕。「いますぐにでも」

 自分で自分の眼が潤んでいるのがわかる。僕の眼はとびきりセクシーだ。そして、誰にも解ってしまうぐらい表情が明快だ。それは弱点でもあり、強さでもある。君の目は漆黒で、表情がほとんど解らない黒曜石みたいな輝きを持っている。僕の眼は赤みがかった不思議な茶色で、ちょっとアルビノ。

 僕は机に俯せて、瞳だけ君を見つめている。
 君は大きく息をして、腕を組んで考え込んだ。

「……放課後、また一緒に図書館に行こうか」

 君がそういったときには、またあの快楽に溶けるのに「イエス」と言ったのも同じ事だ。僕は息苦しくなり、世界が歪む。僅かな時間なのに、「待つ」というのは僕にとってはすごく忍耐が必要なんだ。


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