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君と僕との狂騒曲
【ショタ 官能小説】

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君と僕との狂騒曲-10


 僕は君を軽度のSF系読書依存症にすることに成功した。「ウは宇宙船のウ」「太陽の黄金の林檎」「スは宇宙(スペース)のス」「火星年代記」、そして「たんぽぽのお酒」(これはSFではないが)で、ブラッドベリを打ち切った。しかし、読書という物におしまいはない。僕はブラッドベリの蠱惑的で幻想に満たされた世界から逆落としをかけた。アルフレッド・ベスターが書いた唯一にして最強のハードSF「虎よ!虎よ!」(原題名がTIGER! TIGER!ってのも素晴らしい)。君もこれにはかなりショックを受けたようだった。

 僕は彼にシュール・レアリスムを分かりやすく美術から始め、やがてアンドレ・ブルトンやトリスタン・ツァラなどなど、文学系を教えた。もちろん「教える」っても、意味深な言葉の魔術でね。「教われる側が必要な物を盗んでゆく」ってのが最強の教育だ。僕自身そうやって覚えてきたようにね。

 君はルネ・マグリットやジョルジュ・デ・キリコの熱狂的なファンになり、アンドレ・ブルトンの「シュールレアリスム宣言」に熱中し、「ナジャ」に夢中になった。君は無菌状態の生活から奈落の底のような次元にひきずりこまれたのだ。おそらくは一生を変える思春期に、僕からもたらされた悪夢に、選ばれる事への恍惚に。
 君と僕はほとんど毎日放課後から夕方まで、図書館かスカウトハウスへ出かけていった。時には真夜中の公園で。休日はいつでも。僕が紡ぎ出したものを、君はスポンジのように吸収した。君は素晴らしい物語や僕の画で気に入ったものを「豪華絢爛華麗優美」と表現した。(実際には20文字ぐらいまであった。実際の感覚で長くなったり、短くなったりする)君はレトリックというものに才能があった。君の抜群のセンスが表面に現れて来たのだ。「豪華絢爛華麗優美」は君の口癖になった。
               *
 そうやって僕らの蜜月時代は続く。君といるだけで心が強くなる。君といるだけで心が満たされる。君と会うのは楽しかったし、とても嬉しかった。君さえいれば幸福が暖かい雨のように心を包んでくれる。ヴァニラのように素敵な香りが僕らを包んでいる。何回も言うけれど、僕たちは、コインの裏と表だった。時に君が学校を休んだりすると、学校の廊下は冷たいモノクロームの監獄にまで冷え切ってしまう。君の家の階段で、ドアを叩く勇気が出なかった。その扉の向こうに君が居るだけでも僕は幸せだった。何時間でも、陽が落ちるまで僕は階段の踊り場で立ちつくしていた。そして、そこいらへんから僕の歯車は軋み始めていた。

それは「秘密の部屋」への誘惑より甘い
               *
 僕は君と会う少し前に、少しだけど震えるようになった。最初は「何だろう?」と思い悩んだ。楽しいけど、苦しいのだ。胸焼けみたいな、嫌な感じ。普通に生活していても、いつもぼんやりと君のことを考えている。

 僕はやがて解決できない、危うい奈落の縁に立っている自分を認めなくてはならなくなる。それはザイルもピッケルもアイゼンもなく、アイガー北壁の僅かな棚に残されたクライマーみたいなものだ。

 プールで50mのタイムを計っていた水泳の時間に、フルスピードで泳いできた君がプールを上がり、四つん這いになって喘いでいたとき、その魔法の宝箱は小さな音を立てて、ことりと僕の目の前に散らばった。それは最高の宝石箱だった。

 君の濡れた背中は、産毛がアザラシみたいに背骨に向かって美しくSの字に流れていて、水滴が水晶の粒みたいに青空と陽の光を映して輝いていた。肩胛骨が作る影は天使の翼のようだった。13歳の少年がどんなに美しくなれるか想像して欲しい。薄い美しいピンク色に染まったくちびると、同じ色に染まる君の胸に咲くひときわ美しい乳首と脇の下から伸びる緩やかな筋肉。そして、女の子のように逆に曲がる肘の美しさを。水からあがって来た君の髪の毛を飾る天使の輪の輝きを。言葉なんて、なんて不便なものだろう。その時の君を表現する言葉はこの世の中にはなかった。ウラジミール・ナボコフだって無理だ。学校で一番たくさん書物を読んでいる僕でも不可能なのだから。

 君は首を振ってから、横顔を見せる。長い睫毛の瞬きは、碧いカワセミの羽根のようだ。身体はしなやかな山猫みたいに優雅にうねる。全身に程良く付いた筋肉と、やわらかい肌が誰よりも光を放っている。空から降ってくる特別な恵みと言う物があるのなら、まさしく君はそれに選ばれていた。

 これは人間が創り出したものではない。神に愛されたもののみが放つ光のかたちだ。

 再び訪れる、胸焼けのような苦しさ。それに伴う、目に見えるような体中の震え。
 何が起こったかは明白だったが、それを認めるほど僕に勇気があるはずがない。
 僕は欲情していたのだ。それも……僕自身、いまにも爆発しそうだった。
 この時のヴィジョンは今でも忘れることがないし、忘れる積もりもない。その場で僕は粉々になりそうだった。


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