樹理-21
郵便物は大した物が来ていなかった。たった1日樹理に世話して貰っただけなのに何だか自分で食事の支度をするのが面倒に思えて、カレーを持ってきたのは正解だった。しかしご飯を炊くのが面倒なので先週の残りの固いパンとカレーで食事を済ませた。シャワーを浴びて出てくるとコトコトと変な音がする。何だろうと思って裸のまま音の発生源を探すとテーブルの上に置いた携帯電話が震えているのだった。見ると又樹理からだった。
「もう家に着いた?」
「ああ、とっく。カレー食べたよ。冷たいけど美味かった。カレーって時間が経つと味が出て来るんだよな」
「ご飯は?」
「炊くのが面倒だからパンで食べた」
「パン買いに行ったんだったらご飯買えば良かったのに」
「いや、先週の残りのパンで食べた」
「厭だ」
「日曜に帰らなかったから洗濯をこれからしなくてはいけないんだ。参ったよ」
「それは私がやるから袋に入れてうちに持ってらっしゃい。今から来ればいいじゃない」
「うーん」
「どっちで寝ても同じでしょ」
「そうだけど」
「私の体がロープで縛って欲しいって疼いてるわよ」
「あ、そうだったな」
「ね? うちに来て寝なさい」
「うん、そうしようかな」
「そうしなさい。洗濯物は袋に入れたまま洗濯機の上に置いておけばいいから」
「悪いなあ」
「ちっとも悪く無いわ」
「でも臭いぞ」
「大丈夫。臭いの好きだから」
「ほう」
「だんだん貴方に感化されちゃったのね」
「いいことだ。それじゃ行くかな」
「そうしなさい」
「今シャワーから出た所で素っ裸なんだよ」
「そしたら汚れ物入れた袋の中にスーツを入れて来なさい。汚れが移らないように汚れ物はゴミのポリ袋に入れて紙の袋に入れるのよ。その上にスーツを畳んで置くの。そうすれば見栄えもいいし」
「何着て行けばいいだろう?」
「何でもいいわよ。寝間着着て来ればそのまま寝られるわよ」
「寝間着で電車には乗れないよ」
「タクシーで来ればいいじゃない」
「タクシーだって寝間着という訳には行かない」
「何でもいいから早く来なさい」
「うん」
寝間着という訳には行かないのでトレーナーを着、汚れ物と仕事着を持参して樹理の部屋に行った。これは助かるなあと呟きながら紙袋を洗濯機の上に置き、僅かに残っているスィングを見つけるとそのままストレートで一口に飲んでベッドに寝た。
夜中に目が覚めると樹理が雅也の唇に吸い付いていた。これでは目が覚める訳である。
「来てたのね」
「うーん。来いって言ったじゃないか」
「でも本当に来てるか心配だったから」
「何か洗濯するのが面倒になっちゃって」
「そうよ。洗濯なんて男のする仕事じゃないわ」
「ああ、有り難う」
「待ってる人がうちにいるって嬉しいものなのね。うちに帰ってくるのにこんなに心が弾んだの初めて」
「スィング少しだけ残ってたの飲んじゃったよ」
「いいわよ。まだ口を開けてない奴がもう1本あるから」
「そうだったのか。でも高いだろ。もっと安いのでいいよ」
「いいの。スーツ袋に入れたままだったけど皺になっちゃうじゃないの」
「あそうか」
「しかもきちんと畳んでないで」
「急いでいたから」
「ハンガーに掛けて霧吹いておいたから明日の朝までにはパリッとしてるでしょう」
「有り難う」