樹理-20
翌日は仕事なので雅也は朝早く起きた。腕時計のアラームをセットしておいたが、気が張っているからアラームがなる前に起きた。樹理はまだ寝ているから静かに起き出して顔を洗い、昨日の残りのパンとカレーを食べた。カレーは鍋にまだ沢山残っていた。樹理はあんまり好きだという訳でも無さそうだったので何かに入れて持って帰ろうかと思ったが、それなら仕事が終わってから取りに来ればいいのだと気付いた。やはり鍵を持っていると何かと来てみたくなるのかも知れない。寝ている樹理の唇にそっとキスしてから出た。整ったきつい顔の美人だが、流石に寝ている時の顔は緩んでいて可愛く見えた。
昼頃携帯電話に樹理から電話が掛かり、今日は帰って来るのかと聞く。
「一旦うちに戻る、郵便物とかいろいろ心配だから。でもカレーが沢山余ってただろう。仕事が終わったら其処へ寄って、あれを持っていってうちで食べようと思うんだけど、貰っていっていいかな?」
「いいわよ。ポリ袋に入れておいて上げる」
「そうすると助かる」
「何時頃此処へ寄るの?」
「さあ、7時前後だと思うけど分からない」
「仕事終わったら携帯のスイッチを切っては駄目よ」
「ああ、分かった」
「出る時キスしていったでしょう?」
「うん、分かったか?」
「半分寝てたけど分かった。嬉しかった」
「そうか」
「愛してるわ」
「うん」
「明日来てくれるでしょ?」
「明日? そうだなあ・・・」
「ロープ買っておくから」
「行く」
「全く」
「それじゃまた」
「うん、またね」
夕方7時頃に樹理の部屋に行くとカレーはポリ袋に入れ、更にそれを紙袋に入れて玄関に置いてあった。靴を脱ぐ必要も無く直ぐにそれを持って部屋を出ると携帯電話がポケットの中で震えた。見ると樹理からだった。
「もしもし」
「ああ、出たわね。まだ仕事?」
「いや、今カレー取りに来た所」
「あら、それじゃ入れ違いだったのね。ギリギリまで待っていたのよ」
「何か用?」
「別に用は無いけど一目だけでも会いたかったから」
「いつでも会えるじゃないか」
「そうだけど。暫くベッドで寝て行きなさい」
「もう出たよ。玄関に置いてあったから上がらずにそのまま出た」
「あら、そうね。玄関に置いといたらそのまま帰れって言ってるみたいなもんだったわね。もう少し、もう少しって思いながら玄関で待ってたから玄関に置いて出てきちゃったのよ」
「いいよ。その方が都合が良かった。靴を脱ぐと又帰るのが面倒になりそうだから」
「ロープ買ったから明日来てよ」
「そうだな。仕事が終わったら飛んで帰るけど厭らしいことをしてる時間なんて無いだろう」
「だから食事を用意して置くから食べたら直ぐ寝るのよ。そうすれば私が帰ってから起きてゆっくり厭らしいことが出来るでしょ」
「なるほど。でも樹理のベッドで樹理の匂いに包まれていると興奮して眠れそうにないな」
「何言ってるの。私が抱きついていたって直ぐ寝ちゃった癖に」
「そうか?」
「そうよ。私がいろいろ話しかけてるのに生返事ばっかり。返事もしなくなったと思ったらもう寝てたわ」
「樹理の匂いに包まれてると安心して直ぐ寝ちゃうんだよ」
「さっきと言うことが違う」
「いや、興奮して且つ安心するんだ」
「うまいこと言って。明日はきっと来てね」
「うん」