樹理-2
「本当? 本当に知らなかったの?」
「知らないよ。何で僕が知ってるんだよ」
「本当? 私信じちゃうから」
「信じてくれよ」
「でもどうも匂うのよね。あの次の日に突然辞めちゃうんだから。いくら電話しても出ないのよね」
「ほーう。部屋の中で死んでるんじゃないの?」
「いいの? そんな暢気そうにしてて」
「別に関係無いもの、僕と」
「ふーん。まあ怪しいけど嘘じゃないっていうことにして上げる」
「怪しくは無い。それよりあの日はそっちこそ誰かとホテルでも行ったんじゃないのか?」
「馬鹿。あんたとホテルに行くつもりだったのに突然相手を変えたり出来ますか」
「え? 僕とホテルに行くつもりだった? 本当かいね」
「本当よ。だから私の誕生日には何があっても必ず来てねって言ったでしょ」
「それは誰にでもそう言ってるんだろ」
「同じ事言ったって意味が違うわ」
「そんなこと僕には分からないもの。ホテル行くよってはっきり言ってくれなきゃ」
「そんなことまで言わなきゃ分からないの?」
「分からないよ。それじゃ今日ホテルに行こう」
「今日は駄目よ」
「どうして?」
「今日はそのつもりで来てないもの」
「何で? ホテルに行くのにつもりも振り込みも無いだろ」
「何? 振り込みって」
「いや、こっちの話。何が都合悪いんだよ」
「うーん。困ったな、どうしよう」
「何困ってるんだよ。生理だとか?」
「生理じゃないけど」
「それじゃ何だよ、何困ってるんだ。今日は別の客とホテルに行く約束してんのか?」
「違うわ、馬鹿。そんならいいわ」
「いいわっていうのは行くわっていう意味か、行かないわって意味か」
「行くわ」
「ほーう。それじゃ今日は腰を据えて飲むとするか。いや、あんまり飲んだら駄目か」
「何言ってるの」
「いや、飲み過ぎて立たなかったなんていったら一生の不覚だから」
「そんなこといいわよ。別に今日だけで別れる訳じゃ無し。それよりホテルには行くけど、1つ約束して欲しいことがあるの」
「何だよ。結婚してくれなんて言うなよ。それとも行くことは行くけどセックスはしないでなんて言わないだろうな」
「どっちも言わない。約束して欲しいのは、仕事が終わっても携帯電話のスイッチを切らないで欲しいの。夜私の方から電話したっていっつも連絡が付かないでしょ」
「困ったな」
「だから留守電にしておけばいいのよ。電話されたくなかったら。それで私の電話だけ取ればいいの」
「そんなこと出来るのか?」
「出来なければ私の電話があったのに気づいたら直ぐ掛ければいいじゃない」
「ああ、それじゃそうしよう」
店が終わって軽く食事してから2人は大塚のホテルに行った。樹理はスリップのような形のボディコンを着ていたが、それを脱ぐとパンティ・ストッキングだけしか着ていなかった。
「ほーう。ノーパン、ノーブラか」
「下着を汚しちゃったから脱いだのよ」
「汚した? どうして? あっ、何か厭らしいこと考えて濡れたんだな」
「違うわよ。おしっこで汚したの」
「お漏らししたの?」
「違う。トイレで下着下ろすのが間に合わなくて汚しちゃったの」
「下着下ろすのが間に合わない? 何だそれは?」
「だから我慢し過ぎたのよ」
「何でそんなに我慢するんだよ」
「何でってことないけど、そういうことって無い? 私あそこが緩いのかな? 良くやるの」