樹理-18
「妊娠してんじゃないのか?」
「そうね。昨日中に出したからね」
「へ? 大丈夫って言ったじゃないか」
「出来ても大丈夫、迷惑はかけないからっていう意味よ」
「おいおい、本当かよ」
「本当よ。迷惑はかけないわ」
「違う。安全日じゃなかったのか?」
「危険日だった」
「えっ? 参ったな」
「嘘よ。私は年中安全日」
「どういう意味なんだよ」
「子宮後屈だからまず子供は出来ないだろうって言われてるの」
「本当? そんなの治療すれば治るんじゃないのか?」
「何か入れておくと少し治るらしいけど、相手もいないのにそんな変な物入れてまで直したいとは思わない」
「それじゃいつもバイブ入れといたらどうだろう」
「それで子供出来たら一緒になってくれるの? それならバイブ入れてもいいわよ」
「いやまあ、入れるんならちゃんとした医療器具でないとな」
「又逃げ腰になる」
「いやいや、バイブは安全の為24時間以上連続して使用しないで下さいって注意書きがあるからな」
「そんなの無いわ」
「知ってるのか。使ってるな」
「使ってないわ」
「それじゃ何で知ってる」
「毎年クリスマスになるとビンゴやるでしょ? 店で。その景品に決まってバイブがあるのよ」
「そうか。そんなの当たっても嬉しくないな」
「そうでしょ」
「使う相手がいなければ馬鹿みたいだ」
「使う相手がいたってそんな物普通は持って帰らないわよ。大抵ホステスにくれてやるのよ」
「そうだな。貰ったことあるのか?」
「あるけど友達にあげたわ」
「そいでそいつに入れて貰ったのか」
「馬鹿ね。お店で働いている女の子よ」
「ああそうか」
「安心したでしょ」
「いや、別に過去は問わない」
「違うわ。子供が出来ない体だって聞いて」
「いやー、安心したというより何と言えばいいか。そういうのは困るな」
「困るって?」
「冗談の種にする訳にはいかないから」
「そうね。そこが貴方のいい所ね。ふざけてばかりいても根はふざけていないから」
「いやまあ、根もふざけてるんだけど体の欠陥を茶化す訳にはいかないさ」
「いいの。諦めてるから」
「うーん。今の医学水準なら治るんじゃないのか、そんなのは」
「さあ、相手がいないからどっちにしてもいいの」
「うーん」
「結婚して相手が子供を欲しがったら本気で治療するわ」
「ああ、そうだな」
「便利な女で良かったでしょう」
「いや、気の毒な話だなあ」
「物は考えようよ。何も欠陥が無くても子供が出来ない夫婦はいっぱいいるんだから、それに比べれば初めから分かっているだけ諦めも付くわ」
「ああ、まあ」
「そんなにお醤油付けたら毒よ」
「あ? ああ、醤油はたっぷり付けるのが好きなんだ」
「それは知ってるけど付け過ぎよ」
「これは美味い漬け物だな」
「今度私が漬けようか」
「いや、それはいけない。何してくれてもいいんだけど糠漬け作るなんていうのは駄目だ」
「どうして?」
「ホステスが糠味噌臭くなったらお終いだ」
「洗えば匂いなんかしないわよ」
「いや、僕と付き合っている間はやめてくれ」
「どうして?」
「そういうことする女は好きじゃない。僕は家庭的な女なんか好きじゃないんだ、知ってるだろ? そんなことする暇があったらマニキュアでも塗ったり化粧したりしてくれる方がいい」
「そうね。こういう下着を好むんだから。結局女に夢を持っているのね」