樹理-10
「そういう格好もなかなかいいな。まるでハイティーンみたいに見える」
「有り難う。これ膝が薄くなったからハサミで切ってショートパンツにしたんだけど、短くし過ぎちゃった」
「そんなこと無い。もっと短くたっていい」
「そんなに短くしたらおかしいわ。そうで無くてもかがって無いからほつれて段々短かくなってくる」
「何作ってるの?」
「ハムエッグよ」
「ほーう。いいねえ、それは」
「パンも買ってきたから」
「牛乳はあるかな?」
「勿論買って来たわよ」
「それはいい。あれっ? それは僕のワイシャツじゃないの?」
「そう。この格好でコンビニに行ったらレジの男の子が胸をじっと見てたわ」
「うーん。ノーブラでワイシャツか。それも僕が言ったことがあるのか?」
「あるわよ。普段うちにいる時はそういう格好もいいって」
「良く憶えてるな。いちいちメモなんかしてるんじゃ無いだろうな」
「メモしてるわよ」
「え? 本当かよ」
「本当よ」
「凄いなあ」
「凄く無いわ。本当はメモなんかしなくても自然に憶えるようじゃないと駄目なのよ。でも一緒に暮らしてればそうなるけど、時々会うだけだとなかなかそうはいかないのよね」
「別に全部僕の好みに合わせる必要は無いよ。有り難いけど」
「ううん。全部貴方の好みに合わせたいの」
「それじゃ、ロープと・・・」
「朝からそんなこと言わないの」
「へい」
樹理が後片付けしている間に樹理の買ってきた新聞を読んでいると樹理が裸になってバスルームに入って行った。そう言えば今朝はセックスをする筈だったのにしなかったなと思ったが別にガツガツする必要は無い。ゆっくり新聞を読んでいると樹理がバスタオルを巻いて出てきてドレッサーの前に座った。髪をドライヤーで乾かしている。両腕を上げているので柔らかそうな脇の下が三面鏡に映っている。立っていって後ろから両方の脇の下を手のひらで押さえて肩口にキスした。樹理はドライヤーのスイッチを切って暫くやりたいようにやらせていたが、
「キスマークを付けては駄目よ」
と言った。
「歯形ならいいかな?」
「駄目。仕事に差し支えるでしょ」
「はいはい」
「シャワー浴びて来なさい。その間にお化粧しておくから出かけよう」
「出かけるったって僕の着る物が無い」
「ちゃんとあるわ」
「何?」
「私の服着なさい」
「えー、それは厭だよ」
「あるわよ。ちゃんと買ってあるの」
「僕の服?」
「そうよ」
「へー、それは手回しがいいな」
「ちょっと予定より遅れたけど」
「何が?」
「本当は私の誕生日の翌日に着て貰う筈だったのよ」
「そうか。そこまで予定していたんなら、そうと言ってくれれば良かったんだ」
「言わなくても分かると思ったのよ」
「それがいけない。自分が分かってたら人も分かってる筈だという決めつけが人間関係にとって最も危険なことなんだ」
「だからこれからは何でも言うことにしたわ」
「そう、それがいい」
雅也がトイレとシャワーを済ませて出てくると樹理はまだ化粧をしていたが、雅也が着る服は一式畳んで置いてあった。ブリーフから靴下、ポロシャツ、ズボンまである。雅也の好みとは微妙に違うがサイズはどれもぴったり合っていた。