風馬の決意-4
「そっかぁー。」
「……。」
私は決意した、やっぱりお母さんの言う通りだった。私たちみたいな人生をまだ17年間しか生きていないような輩が大好きな人と一緒になりたいからって平気で頑張って稼げばいい、援助金でどうにかなる、知り合いの家に泊まればいい…何て、あまりにも浅はかだった…。
故に、私は…私は。
風馬君と離れる事にした
「……風馬、君。」
「……。」
翌日、放課後人気のない公園に大事な話があると彼を呼んで、私の判断を打ち明けた。
「……。」
「………。」
先ほどから何も答えない彼。当然だろう、私は彼を傷つけたんだから、彼にとって一番して欲しくない最悪の選択をしたのだから…。
…正直、幻滅されるだろう、怒られても仕方がない…、巴ちゃん曰くグーで殴られても不思議ではないのだから。
「…私、最低だよね、こんなこれだけお世話になった君をこんな形で裏切る何て。」
「……。」
「もういいよ、私の事、嫌いになっても…、私はそれだけの。」
「自分をそんな責める必要はないよ。」
「え…。」
「最低?君を嫌いになる?…どうして。」
「…だって、私は。」
「確かに別れは辛い、出来ればずっと君とこの同じ街に居たい、そして。」
「だけどその約束を。」
「守れなくなってしまったね。」
「だからそれは。」
「仕方ないよ…、君だってしたくてこんな選択を選んだ訳じゃない。」
「風馬君…。」
ひょっとして私がこの選択を決意すると、薄々予想していたのだろうか?
…そしてもしそう答えたその時、彼なりに必死に考えたのだろう。
一人で責任を背負い込む私に最大限負担が掛からないように。
「っ!」
「……♪」
一歩近寄り、私の頬を片手でスッと触れる。そしてその顔は朝に学校で会うようなごく普通の笑顔。
「君は偉いよ、立派だよ、本当はとてもとても辛くて苦しくて仕方がない筈なのに、冷静に判断した。」
「けど!」
必死に声を張り上げる私をよそに落ち着いた様子で首を横に振り。
「君は間違って何かいない。だってあのまま僕を待っていた所で無謀だよ、昨日の話し合いは正しい、幾ら仲の良い親友だからって安易によその子を居候させる何て簡単な事じゃない…。」
「風馬君…。」
「おばさんの元に一緒について行くのだって彼女を心配させない為、ひいてはもっと親子の仲を深めたいんでしょ?」
「…うん、あのまま離れ離れになったらまた……っ!」
そう言うと彼は私を包み込むように、それでいてやや強めに抱きしめて。
「風馬、君…。」
「そうだよ、そうだよ…君は本当に優しい、そういう所大好きだよ!」
「……。」
私を解放し、とても穏やかな表情で瞬き一つせず私を見つめる。
「…向こうに行ったら手紙、送るから!……絶対に!」
「うん。」
「…貴方は私をとても優しくて立派だと言ってくれた。けどそれは風馬君もそうだよ。」
そうだ、きっと彼だってあの話し合いの後、沢山泣いたのだろう、それはもう眼球が枯れるくらいに、私と離れる何て何かの間違い冗談に決まってるんだと、何度も悔いたに違いない。
正直必死になって引き留めても良かったのに、自分の事だけ考えても良いのに、それなのに、そんな自分の今にも千切れそうな想いをぐっと堪えて、愛おしい世界で一番大事な人の大切な想いを尊重しようと、最後の最後まで、私の事を。
「うっうううっ!」
「若葉、ちゃん?」
「本当に、どうして。」
「?」
「……どうして君はそんなに良い人なの?どうしてそんなに正確に人の想いを理解してそして確実に実行出来るの?」
「……。」
ここで泣いちゃ彼の想いが無駄になってしまう……それなのに。
「…大好きだからだよ。」
「っ!」
そっと出て来た涙を指を拭ってくれる彼。
「僕何か所詮はただの凡人さ。けれどもこの世で一番大切な人を護り幸せにしよう、そう思うと、そういう行動に出れた、ただそれだけの事。」
「風馬、君。」
「さぁ夜も更けてきた、そろそろ帰らないとね。」
「…うん。」
「送ろうか?」
「ううん!大丈夫、君だって疲れてるだろうし。」
「そっか。」
そう言って彼に見守られつつ公園を後に背を向けると。
「必ず!」
「っ!」
必ず、君を……迎えに行くから!
風馬、君。
こうして私はあまりにも突然のこの街との別れを迎えた。
巴ちゃん、一条君、佐伯君、今までありがとう。
お爺ちゃん、私向こうでお母さんと新しいお父さんたちと幸せに暮らします。
だから、だからどうか見守っていて下さい。
次回、82話に続く。