誓いのペンダント-8
唯が帰ってきた。
唯は友達が多い。遊んで帰ることも多かった。
「唯、遊んで帰るのもいいが、暗くなる前に帰れよ」
「うん」
唯は素直に頷く。どことなく、嬉しそうだ。
「嬉しそうだな。何かいいことでもあったのか? 俺にもその幸せを分けてくれよ」
「うふふふ」
唯は含み笑いをしながら通り過ぎた。
「お兄ちゃん。私、白木先輩と付き合うことにしたから」
「なっ・・・!?」
体が冷えていくのがわかる。
「唯、白木は・・・」
「もう、それはいいよ。お兄ちゃんは、自分が彼女できないからって、白木先輩を羨んでいるだけでしょ」
「お、おい・・・唯。俺はおまえのことを心配して言ってるんだぞ」
「余計なお節介よ。私のことは私が決める。このあいだ言ったでしょ」
唯の瞳には強い拒絶の光がある。浩之はそれ以上、何も言えなかった。
唯はその日、明るかった。普通に戻ったといっていい。だが、浩之に対する態度が微妙に違う、そう感じた。
その日の夜、浩之はなかなか寝つけなかった。胸が疼く。
白木と付き合うなんてことは認めるわけにはいかない。唯は白木に騙されている。唯はそのことに気づいてないのだ。唯は浩之と喧嘩して、不安定になっていた。だから、白木の本当の姿に気がつかなかったのだ。自分には唯を守る責任がある。唯に白木の本当の姿をわからせないといけない。
だが、本当にそれだけなのだろうか。自分のこの気持ちは、もっと別の所から来ているのではないか。
唯と白木が抱き合っているところを想像する。頭の血管が焼き切れそうになる。浩之は唯を女としてみていた。頭の中で、何回も唯を犯した。とても口では言えないような酷いこともした。自分はただ、それを白木にされるのが我慢ならないだけではないのか。
唯はかわいい妹だった。いつも、お兄ちゃん、お兄ちゃんと慕ってくれる。浩之から離れようとしなかった。それが、浩之にはうれしかった。だから、浩之もいい兄であろうとした。だが、それは唯を独り占めしたかっただけではないのか。
唯が、浩之に向ける気持ちは少し異常なものがあった。唯には、いつも何かに怯えているようなところがある。人には明るく振舞っていても、心は恐がっている。他に人にはわからなくても、浩之にはわかる。そして、唯も浩之の前では、そういう自分を隠そうとはしなかった。
自分はそれを利用したのではないか。自分が唯を守らなければならない。そう、浩之は自分に言い聞かせてきた。だが、本当に唯のことを思うなら、唯と距離をとるべきではなかったのか。今の唯は、誰かにすがりつかなければ生きていけないような人間になってしまいる。そうしたのは浩之なのだ。自分の歪んだ独占欲が、唯をそうさせてしまったのだ。
唯が白木と付き合うのは、いいことかもしれない。浩之はそう思った。唯にとって、一番よくないのは、自分といることだからだ。
白木も、あの時の別れ話は、唯と付き合うためのものだったのだろう。そう考えれば、白木も誠実な男だといえる。
唯のうれしそうな顔を思い出す。
これでいいのだ。浩之は自分にそう言い聞かせたが、胸の疼きは止まらなかった。