誓いのペンダント-7
授業になんか、身が入らなかった。落ち着かない。不安。世界で、自分一人ぼっちになったような気がする。休み時間は、友達としゃべりまくった。何かしてないと、おかしくなりそうだったからだ。
学校が終わっても、家には帰りたくなかった。遊んで帰ろう、そう思ったとき、白木に呼ばれた。昨日の返事だろう。まさか、教室まで来るとは思わなかった。何人かの女子が羨望の眼差しで見る。その視線が心地よかった。
「白木さん・・・」
断るべきだろうか。少し、もったいないかもしれない。そう思った。白木のようなハンサムは滅多にいない。雰囲気も落ち着いているし、やさしそうだ。まるで、少女マンガの主人公みたいだった。
「これから、ひま?」
「え・・・ええ」
「遊びに行かない?」
「遊びですか・・・」
「行こうよ」
強引な誘い。断る理由もなかった。二人きりで遊びに行くのだろうか。だとしたら、かなり心配だ。だが、白木は普通に落ち着いている。そんな態度を見ると、なんとなく安心してしまう。それに、家に帰りたくなかった。
いつのまにか、遊びに行くことになってしまった。遊びに行くと言っても、なんのことはない。喫茶店だった。しゃれた感じがする喫茶店。白木はいつもこういう所に来ているのだろうか。唯はちょっと感心した。
「何でも頼んでいいよ」
「そんな、悪いですよ」
白木は微笑むと、ウエイトレスを呼んで、唯の分も注文してしまった。
「悩み事でもあるの?」
「えっ」
「今日の唯ちゃん。ちょっとおかしいから」
「そんなことないですよ・・・」
傍から見ても、今日の自分はおかしかったのだろうか。みんな、おかしいと気がついたのだろうか。また、不安になる。
「僕に話してくれないかな」
「別に・・・何でも・・・」
「お兄さんのことかな?」
「!?」
浩之。思い出したくもなかった。
「唯ちゃんはお兄さんと仲がいいんだって。唯ちゃんが好きなくらいだから、いいお兄さんなんだろうね」
「兄のことは・・・」
唯は顔をそむけた。
「やっぱり、何かあったんだね」
それから、白木は浩之のこと、喧嘩のことについていろいろ尋ねてきた。無神経な人だと思ったが、唯の話すことにいちいち頷く白木を、責める気持ちにはなれなかった。
気がつくと、唯の方が喋っていた。何を話したのかは分からない。とにかく、全部吐き出すように喋った。
「そろそろ帰ろうか」
「えっ・・・」
まだ、話したりない。そんな気さえする。外を見ると、だいぶ薄暗くなってきている。
白木に話したせいだからか、心が軽い。不思議だった。こんなに自分の心を話したのは、浩之以外いない。それに、唯を包み込むような優しさがある。いや、大きさというべきか。それは、浩之にはないものだった。
白木は唯の分まで払った。唯は断ろうと思ったが、白木の態度に押しつけがましい所はなく、ごく自然に払っていた。
「送っていくよ」
断る理由はなかった。
今日、白木に話して本当によかった。白木がいなければ、唯は不安に押しつぶされていただろう。
二人で歩いているとき、白木が唯に手を回した。唯は一瞬驚いたが、黙って抱きしめられた。白木のぬくもり。それは、心地よいものだった。
家の前まで来た。あたりはもう、すっかり暗くなっていた。誰もいない、静かな路地。白木と離れるのが寂しい。そう思った。
「唯ちゃん・・・」
目が合う。
白木の瞳、白木が愛しいと思った。白木の唇が近づいてくる。唯は目をつぶった。
そのまま、二人は唇を重ねた。