誓いのペンダント-6
自分は、唯の兄としていたらなかったのだろうか。浩之は溜め息をついた。いつも、唯のことは一番に考えてきた。唯の良き兄であろうとした。それが、どこで間違えてしまったのだろうか。
「わからないな」
「どうしたんだ。お前、いつも独り言の多い奴だけど、今日は重症だな」
「うるさいんだよ」
「まあまあ。腹が減ってるから、いらつくんだよ。飯買いにいこうぜ」
「そうだな」
いつものメンバ−で売店に行く。義母に言えば弁当は作ってくれる。悪いから、そう言っておいた。あまり、義母のことは好きではない。
売店はいつものように人でごったがえしていた。みんな、殺気だっている。
「さあて、今日もいっちょいきますか」
浩之は気合いを入れると、人混みの中に入っていった。もみくちゃにされながらも、何とかパンを買うことが出来た。運が悪いと、一個も買えないこともある。
「おっ、買えたようだな。じゃ、戻るとするか」
「だな」
無事に買えたので、教室に帰ることにする。
「あれ、白木じゃないのか? また、違う女連れてるぜ」
白木、そう聞いて、反射的に見る。唯ではなかった。軽く息を吐く。しかし、白木は唯に告白したと聞いた。違う女を連れて歩くとはどういうことか。しかも、雰囲気が尋常ではない。
「わりぃ、俺、ちょっと用事が出来た」
「お、おい・・・」
考える前に、体が動いていた。白木の後を追う。中庭に出た。見失ったと思ったとき、言い争う声が聞こえた。
「何で! 私の何がいけなかったの!」
「別におまえが悪い訳じゃない。俺たちはただ、合わなかったんだ」
「そんな・・・明先輩の言うこと、なんでも聞いてあげたのに」
別れ話。さすがに気まずい思いになる。浩之が居て良い場所じゃない。戻った方がいいと思った。
「うるさいんだよ! おまえ、勘違いしてんじゃないのか?俺はおまえのことなんて、好きでもなんでもなかったんだよ。おまえが、あんまり付き合ってくれってうるさいから、お情けでつきあってやったのさ!」
いきなり、白木が大声を出した。
「そんな・・・」
「とにかく、これ以上つきまとうんじゃないぞ」
白木が浩之の所に向かってきた。立ち去ろうと思ったが、間にあわなかった。
「あっ・・・浩之くんだったかな」
「ああ」
「まずいな。嫌なところ見られちゃったな」
「俺こそ悪かったな。覗き見るようなまねしちゃって。そんなつもりはなかったんだが」
「別にかまわないよ。全部、彼女のためにやったことだ。彼女の幸せのためには、俺なんか、いないほうがいいと思ってね」
芝居がかった言い方。平気で嘘をつける男、そう思った。
「そうだ、俺、唯ちゃんに告白したんだ。まだ、OKはもらってないけどね」
「聞いたよ」
「そう。まあ、これからよろしく頼むよ」
白木はそう言うと、彼女の方は見ないで去っていった。
気分の悪い男だ。唯はあいつのことをどう思っているのだろう。まさか、付き合うことはないと思うが。そう思っても、やはり心配になる。
気がつくと、浩之はパンを握り潰していた。