誓いのペンダント-5
下校時間になる。昔は、いつも浩之と帰っていたが、今は友達と帰っている。浩之が嫌がったのだ。その時は、ただ恥ずかしいだけだろうと思っていたが、その時から、唯のことをうざいと思っていたのかもしれない。そう思うと、また暗い気持ちになる。
「唯ちゃん。ちょっといいかな」
唯が帰ろうというとき、声をかけられた。振り向くと、男の人が立っている。
「白木・・・せんぱい?」
「ほー、うれしいな。よく、俺の名前を知っていたね」
この学校で、白木明を知らない人間はいない。白木の母は有名な女優である。テレビや映画でも、当たり前のように見かける。だいぶ、年のはずだが、今でも美しかった。それだけに、白木自身も相当な美形だ。それに、成績優秀で運動神経も抜群である。特定のクラブのは入っていないが、クラス対抗のスポ−ツ行事では、一際目立っていた。憧れている女の子はかなりいるはずだ。
白木と話をしていると、下校している女の子が唯を見るのがわかる。なんとなく、落ち着かなかった。
「ねえ、唯ちゃん。今度、一緒に遊ばない」
「えっ!?」
唯は思わず聞き返してしまった。
「もう、はっきり言っちゃおうかな。唯ちゃん、俺と付き合ってくれないかな?」
「えっ! いや・・・」
「嫌かな?」
「そんな・・・いきなりで、私・・・」
白木の告白された。思いがけない出来事で、心臓が高鳴る。顔が、赤くなっているかもしれない。
「そうか、いきなりだよね。でも、俺が好きだってことは覚えていてくれよ。明日、会おうね」
「は、はい。すいません」
白木はあっさりと去っていった。唯はあわてて頭を下げる。ちょっと、残念な気もした。
これを浩之に言ったら、どんな顔するだろうか。そんなことを思った。唯のことを、ちょっとは意識してくれるだろうか。白木に告白された。つまり、自分にはそれだけの価値があると言うことだ。浩之にも、そのことをわからせないといけない。
唯は、先程よりも少し軽い足取りで帰る。
家に着いた。玄関に浩之に靴がある。唯は階段を上がると、自分の部屋にバッグを投げ捨て、浩之の部屋に行く。
「お兄ちゃん、いる?」
「あいよ」
しばらくして、浩之がドアを開けた。
浩之は唯を部屋に入れたがらない。理由は簡単。エロ本があるから。どうせばれているのだから、隠す必要などないのに。唯はそう思っていた。
「ねえ。白木先輩って知ってる?」
「ああ・・・」
「告白されちゃったの」
ちょっと困った、すがるような目で言う。こういう目をするのは得意だった。
「そうか・・・おまえは、白木がどういう奴か知っているのか?」
「・・・えっ?」
浩之は落ち着いていた。冷淡な感じさえ受ける。
「悪いことは言わない。断った方がいい」
「ちょっと待ってよ。どういうこと?」
「あいつは、真剣にお前のことを考えているということじゃない、ということだ。あいつにとって、女はオモチャみたいなものなんだよ」
「なっ・・・」
「俺はお前のことを考えて言ってるんだ。兄としてな」
兄として。唯は自分の中で、何かが切れたのがわかった。
「ばか・・・」
「ん?」
「ばか!」
もう、自分を抑え切れない。
「いつまでも、兄貴ヅラしてんじゃないわよ! お兄ちゃんに、私の何がわかると言うの? お兄ちゃんは、私のことなんて、ほんとは何も考えてないんでしょ。そんな兄なんて、いらないわよっ!!」
浩之は呆然をしている。
「何を言ってるんだ。俺とお前が兄妹なのは、何があってもかわらない。俺が兄としてふがいないと言うのなら・・・」
浩之は何もわかっていない。自分は浩之に期待しすぎたのだ。浩之が兄というなら、自分もそう思えばいい。ただの、兄だ。
「もういいよ・・・ごめんなさい。でも、私が誰と付き合うかは、私が決めるわ。お兄ちゃんは口をはさまないで」
「おい、唯!」
唯は浩之の制止を振り切って、自分の部屋に向かう。
ベットに横になった。
何があっても兄妹。浩之の言葉が頭に響く。確かにそうだ。浩之は正しい。それでも、唯の涙が止まることはなかった。