誓いのペンダント-30
今日は、学校は早く終わった。白木のことで、会議があるらしかった。
白木は親が有名な為、薬物使用が大々的に報道された。今も、学校の周りには報道陣がひしめいている。
白木が薬を使っていたのは前から噂になっていたので、別に驚きはしない。浩之が会ったときは、かなり末期だったのだ。捕まるのは時間の問題だっただろう。
当然、唯のところにも警察が来た。その時、義母が烈火のごとく怒りだしたのが印象的だった。義母は、唯は被害者なのだと盛んに訴えた。気の小さい人だと思っていたが、意外だった。
唯のことはまだ報道陣には知られていない。それでも、知られるのは時間の問題だと思ったので、義母が病院に入院させた。義母はよく見舞いの行っているようだが、浩之はあまり行っていない。地理的にも遠く、簡単に行けるような所ではなかったし、どんな顔をして唯に会っていいのかもわからなかったのだ。
唯に好きだといった。それは、いい。だが、こんなことが許されるのだろうか。二人は、兄妹なのだ。
それに、白木と抱き合っていた姿を今でも思い出す。白木に身を委ねていた唯。浩之のことを嘲って笑った唯。それらを思い出す度に、嫉妬と憎しみに押しつぶされそうになる。自分の中に、唯を憎しんでいる気持ちがあるのも事実だった。
家に着いた。まだ、昼過ぎだ。暇だから、唯に会いに行ってもいい。いつまでも、このままではいけない。浩之は玄関を開け、自分の部屋に向かう。
その時だった。声が聞こえた。
喘ぎ声。
浩之の心臓が一気に高鳴る。
あの時、聞いた声とまったく同じ声。相手は誰なのだろうか。白木とは考えにくい。いずれにせよ、放っておく訳にはいかない。唯がまた薬物を使用している恐れがあるからだ。浩之は意を決すると、声があるほうに進んで行く。
そこで、気づいた。声がしているのは唯の部屋ではない。浩之の部屋だ。頭にカッと血が昇る。どこまで俺をバカにすればいいのか。そんな気持ちだった。
浩之は怒りに任せて、ドアを開けた。
「・・・・・・あっ、お兄ちゃん・・・・・・」
唯は惚けたような顔をしていた。自分も,多分同じような顔をしているだろう。
唯は浩之のベットに横になっていた。一人だった。
「あ・・・・・・あのぉ・・・・・・そのぉ・・・・・・」
ショ−ツが脇に転がっている。手はスカ−トの中に入れたままだった。
「とりあえず、ちゃんとしろ」
浩之は後ろを向いて言った。
唯が慌ててゴソゴソとやっているのがわかる。
「もう、いいか?」
「うん・・・・・・いいよ」
浩之は振り向いた。
唯は気まずそうに下を向いている。ベットに染みのようなものが出来ていたが、浩之は気づかない振りをした。
「病院はどうしたんだ?」
「ちょっと、帰りたくなっちゃって・・・」
「抜け出してきたんだな」
そう言うと、唯はまた気まずそうな顔をした。
「だってぇ・・・」
唯は、一時期はかなり痩せていたが、今では完全に元通りになっている。禁断症状の類も出ていない。元々、そんなに深い中毒ではなかったという話だ。唯が幻覚を見ていたのは、むしろ唯の精神的な問題らしい。そして、唯は急激に回復しつつある。病院でもいつも明るいし、肉体的にもまったく問題はない。それでも、ほとぼりが冷めるまでということで入院しているのだ。
唯もそのことはわかっているはずである。
「お兄ちゃん、あんまり来てくれないじゃない」
「そんなことはない・・・はずだ」
「来てもすぐ帰っちゃうし」
「まあ・・・そうかな」
「そうよそうよ」
浩之はため息をついた。
「まさか、それで帰ってきたなんて言うなよ」
「むーーー」
「そんな顔してもだめだ」
「じゃあ、どうしろっていうのよ」
今から帰れ、とは言いにくい。今日は泊まらせた方がいいのかもしれない。それで唯の気持ちも晴れるだろう。義母も今すぐ帰れとは言わないはずだ。
「言っとくけど、今日は母さんは帰ってこないからね」
「ああ・・・そうだったな」
「なに、その残念そうな顔は?」
「な、なんだよ」
「お兄ちゃん。最近、お母さんと仲いいみたいじゃない」
「お、親子だろ。当たり前じゃないか」
「ふーーーん」