誓いのペンダント-28
まずは、白木の家に行く。唯が禁断症状で苦しんで出て行ったとしたら、薬を求めるはずだ。白木の家はわかる。白木御殿。ここら辺では有名だ。
雨が強い。浩之はビショ濡れになる。だが、そんなことにはかまわず、走り続けた。
白木に家に着いた。インタ−ホンを押す。反応はない。何回も押す。反応はない。浩之は舌打ちをした。どうすればいい。自答する。
携帯。白木の携帯だ。だが、浩之の携帯に白木の番号は入っていない。浩之はまた舌打ちをした。
やはり警察に任せるべきだったか。素人が焦って行動しても、失敗するだけではないのか。
そう思っていた時だった。玄関が開いた。
「白木・・・」
痩せていた。生気がない。死人のようだった。
「お前が唯を連れて行ったのか?」
「それは、俺が聞きたいぐらいだ」
「嘘つけ。俺は知っているぞ」
「なんのことだ?」
「お前が唯を連れていったんだ!俺にはわかる。俺には宇宙の意志がわかるからな!お前達は俺を恐れたんだ。自分達の脅威になるからってな! だから、唯を連れて行ったんだ。そうだろう。俺にはわかるんだ!!」
「な、なにを言っている」
薬物による妄想。もはや、理屈が通じる相手ではない。逃げるべきだ。浩之はそう思った。
「唯を返せ! 唯をかえせぇぇぇえええ!!」
いきなり、白木が飛びかかってきた。
「くっ・・・ぐはっ・・・」
襟を捕まえられる。ものすごい力だ。ボロボロの廃人のような白木のどこにこんな力があるのか信じられない。勢い余って、二人とも倒れ込む。
「唯をどこへやった! 唯をどこへやった! 唯をどこへやった!!」
強烈な力で首を締められる。殺される、そう思った。
「くっ・・・お・・・俺じゃ、ない・・・」
「唯をかえせッ! 唯は俺のモノなんだ!唯がいないと、俺は・・・ クソッ、殺してやる。殺してやる殺してやる殺してやるっ!!」
白木は本当に殺すつもりだ。とっさに怒りが沸いてくる。なら、俺も殺してやる、そう思った。
「ふざけんじゃねえぞ、コラァァァ!!」
浩之は渾身の力を振り絞って、白木を突き飛ばした。まだ少し意識は朦朧としてたが、とにかく立ち上がると、まだ倒れている白木の腹を蹴る。
「ぐふっ」
白木のくぐもった声が聞こえる。浩之は気にせずに蹴り続けた。自分の中の欝屈を吐き出すかのように蹴り続けた。
どれくらい蹴り続けただろうか。白木はぐったりとしている。
「おい」
浩之は足で白木の頭をつつく。すると、白木がすすり泣き始めた。
「・・・唯・・・どこ行ったんだ・・・・助けてくれ・・・俺のことをわかってくれるのはお前だけなんだ・・・唯・・・俺はお前がいないと・・・」
白木は必死に唯のことを呼んでいる。それを見て、浩之は苦い気持ちになった。
白木も可哀想な奴だったのかもしれない。浩之に白木のことはあまりわからないが、白木はいつも演技をしているような男だった。絵に描いたような笑顔と立ち振舞。その中で、欝屈したものがあったろうか。それとも、親の名前に潰されていたのだろうか。
いずれにしても、白木に何かしてやる気にはなれない。
「悪かったな、乱暴なことしてしまって。俺は行くぜ」
白木はまだ泣いている。浩之は振り返らなかった。
唯はどこに行ったのだろうか。白木の所ではなかった。他に行きそうなところ。思いつかない。とろあえず、昔、唯と一緒に行った所を、まわってみようと思った。
『お兄ちゃん・・・私、信じてるから。お兄ちゃんは約束を守る人だって。私、ずっとあのペンダント持ってるから・・・』
ふと、昨日の唯の言葉を思い出した。あの時の唯の目はどこか思いつめたような目だった。唯が出ていったのも、浩之が原因だったのかもしれない。
ならば、どこに行ったのか。
「あそこだ」
浩之は気づいた瞬間、走り出していた。