しんぷるらいふ-1
こんな夜はどこへ行こうか
チカは思いついたように外へ飛び出した。
100均のつっかけに白いスカート。
水色のキャミソール。
行き先は決まっていない。
さっきまでチカがいた家からは怒鳴り声が聞こえる。
チカはそんなことには気にしない。
水溜まりを飛び越え、湿った夜の空気を吸い込む。自由になれたような気がした。
コンビニに向かった。駅のさらに向こうのコンビニへ。普段は行かない場所にチカは憧れた。
100均のつっかけはチカの小さい足には合わない。何度かチカは疲れてガードレールに腰掛ける。雨でガードレールは乾いていなかったが、白いスカートが濡れるのをチカは気にしなかった。
コンビニについた。
しかし自動ドアの前に立ってもドアは開かない。
チカはくびを傾げて少しジャンプをしてみる。
やっぱり開かない。
「なんで開かないんだろうねー」
チカの後ろから声がした。チカは振り替える。
20代前半だろうか。スーツ姿の男がいた。
「あたし、幽霊だから開かないのかな」
チカは彼に笑いかける。
彼はきょとんとした目でチカを見つめた。
「幽霊なの?」
「うん」
「成仏しないの?」
「うん」
「どうして?」
「復讐したい人がいるから」
彼は驚いたようにチカを見つめた。
「まぁ…人にはいろいろあるわなぁ。なんか好きなもの買っちゃろうか」
彼は自動ドアからコンビニへ入った。チカがコンビニに入るまで彼はドアの前に立っていた。
自動ドアを一人で開けられないチカの為に。
二人はアイスを買う。
彼の車に乗ってドライブをすることにした。
彼の名前はユースケと言った。
「ねぇ、あたしのこと怖くないの?」
チカは車の助手席に座ってユースケに尋ねる。
「え?別になぁ…ってかこんな夜中に俺はこんな年ごろの娘さんを車に乗せていいのだろうか」
チカはあははと笑う。
何も変なことはしないけど、とユースケは付け加える。ユースケとなら何かあってもいいけどな、と心の底でチカは思った。