しんぷるらいふ-3
「ユースケ」
「なに?」
「ユースケ」
「なぁに」
「あたし、幽霊なの」
「うん」
「だからいつか帰らなきゃいけない」
「うん」
「ユースケとは、もう会えないの」
「うん」
「だからね、今日だけは一緒にいて」
ユースケはチカの手を握った。
「あたし、ワガママだね」
「そんなことねえよ」
「ありがとう」
「うん」
「うん、なんだか安心する」
チカはこの日、久しぶりに、安らかに眠ることができた。
夢も何も見なかった。
ただ、ユースケの匂いのついた布団が心地よかった。
朝、起きるとユースケはソファで寝ていた。
チカはユースケの側まで行く。胸から何か熱いものがこみあげてくる。
やさしい笑顔、右目の下にある泣きボクロ。
たった一日でこんなに愛しいと思う感情は湧き出てくるのだろうか。
まぶたにキスを落とした。愛しくて、悲しくて泣きたくなった。泣けないけれども。
ユースケの顔をじっと見ていた。
「チカちゃん、もし俺が死んだら、チカちゃんにもう一度会えるの?」
ユースケは目を瞑ったままである。
チカはくびをぶんぶんと振った。
「死ななくて、良い」
「あたし、本当は生きてるから」
ユースケはソファから身を乗り出しゆっくりチカを抱き締めた。
「…よかったぁ」
その声が聞こえてくる。チカは笑った。ユースケもつられて笑う。
久しぶりに声を出して笑った。
あたし、生きてるから
自分で言いながらチカはその言葉の重さを実感する。
ユースケはチカの心のドアを少し、開けてくれたのかもしれない。初めて出会った時、自動ドアを開けてくれたように。