夏-1
夏が来る。
夏は暑い。
肌は汗でベタついて、とても不快になる。
だから時々夕立が来たとき、俺は傘をささない。
周りにいる奴らと、降りしきる雨のなかで体を動かす。
いつもは冷たい雨も、なんだかやけに温くて、それがさらに俺たちの気をたかぶらせた。
普段なら、こんなことは絶対にしない。
こんなことをするのは夏が来るから。
夏は暑い。
あまりの暑さに一人涼しい部屋で過ごしたくなる。
だけど、気の合う奴らに誘われたら暑さなんか気にせずに遊ぶ。
一人でいたいのに、本心は拒んでいる。
なんで暑くても遊ぶのか。
それは夏が来るから。
まだガキの頃、山に沈んでいく夕日を見た。
いつも見る日とは違う、怖くなるほどの鮮やかな橙色。
それを見て泣きながら家に帰ったのを覚えてる。
誰かにいてほしくて、だけどそういう時に限って誰もいない。
窓から夕日が差し込む。まるで俺を捕まえるかのように。
突如、家の電話が鳴る。日に当たらぬように慎重に移動しながら受話器をとった。
友達からだった。
一緒に遊ぼうと言ってきた。俺はすぐに返事を返し、受話器を置いた。
もう日差しは気にならなかった。
外に出て、山の方を向くと、まだ日は半分ほどを山から出していた。
さっきまでは恐怖の的だった夕日も、今はまるで一緒に遊ぶ友達のように思えた。
今は、もう夕日を見ても気にならない。
窓を開けて空を見る。
暗闇にわずかに日が混じった紫の空。