蓮と巴と黒崎-6
「ふざけんなっ!!」
「っ!」
休日、彼と私は大事な話があると隼人を喫茶店に呼んだ。けど案の定その話に激怒し、というか納得しないようで。
「落ち着いて、周りの人驚いてるよ。」
「るっせぇ!テメーは黙れよ!」
声のトーンを周囲に迷惑が掛からない程度に下げてくれた…。けど蓮に対しての憎しみは半端ない、親の仇でも見るような目で睨みつけ、公共の場じゃなかったらナイフで刺しかねない…そんな感じだ。
「……。」
隼人は彼とは口も聞きたくない、そりゃそうよね大好きな人を何だかんだ言って奪った恋敵なんだから。
仕方がないから私が口を開く羽目に。
「隼人、アンタの気持ちはよく分かる、彼を嫌う理由も、そしてそんな彼を選んだ私の事だって。」
「巴!やっぱり俺とやりなお」
「出来ないっ!」
「っ!!」
きっぱり言った、そうでないと絶対に前へは進めない、今横に居る彼がそうしたように。
「……巴。」
「…アンタが何を言おうが何をしようが私はアンタとは付き合えない、私は、私は…少しボケてて普段はちゃらんぽらんしてて時にどうしようもないなーって呆れるけど、けどそれでも暖かくていつも傍に居て落ち着く、そんな彼が好き、大好きなのっ!」
「嘘だね、お前はまだ俺に好意を抱いてる。」
「違うわ。」
「違わないね!ならどうしてあの時俺が飛び降り自殺してやろうとした時、必死になって止めようとした!?」
「それは。」
「俺の事を好きになれないならあんな電話さっさと切れば良いだけの事だろう、それをしないって事は。」
往生際悪いなぁ。
「だからってなんで未だ好意が残ってるって。」
「なら!……そうか!罪悪感だなっ!あのまま俺を止めなかったら自分が俺を殺してしまったんだと、自分が後々コイツと宜しくする日々にその十字架が邪魔になると思ってそれでっ!」
「分からないの!?彼女の思いやりが!」
滝のように私への恨みつらみを言う彼に蓮が制止。
「蓮…。」
「…あぁ?お前は黙って。」
「彼女は、巴は気に掛けてるんだよ!」
「?」
「彼女は前々からずっと自分自身を追い込んでいた、私のせいで僕と君を傷つけた本当に酷い人間だって。」
「……。」
蓮…。
「もし巴が君に好意があったら君をそこまで追い詰める筈もない、かと言って君を見殺しにして一生十字架を背負う、それを阻止したくて電話を切らなかったとも考えにくい、例え君が僕らのせいで自らの命を絶ち、それで毎晩悪夢にうなされたとしても、この彼女の事だ、過ぎた事をいつまでもくよくよしない、「あの時やっぱり彼を選んでいれば」何て後悔するとは考えられない!」
「……。」
「分からない?彼女だって君に悪いと思ってた、それも深々と…、だからあの電話だって君の案じてた、けど君は言われるまで分からなかったんだね。」
「巴…。」
弱り切った声で彼女の方を向き。
「へっ!でも本当に良いのか?こーんな真剣な将来の話もロクに耳を傾けないようなそんな阿保な奴に。」
「勿論、今度は必ず。」
「バカが!口先だけなら誰でも!」
「それは違うよ隼人。」
「えっ。」
「この前彼とデートを終えた後、彼の家に誘われたの。」
「……。」
「そしたら見せてくれたの、何枚かのパンフレットを。」
「パンフレットって。」
「勿論私が将来なろうとしているスポーツトレーナーに関する物、それ以外にもネットで見つけた有力な情報をプリントアウトしたものも見せてくれた、ていうか探してくれたの本来スポーツトレーナーとは縁もない彼が一からね、私の為に。」
「…。」
恨めしそうに彼を見つめ、けど何処か表情は和らいでいて。
「だからね!私は彼を信じようと思うの!もう一度やり直してみて、それで!」
「……黒崎、君。」
「………。」
これ以上にないってくらい渋い顔をして。
「いぞ…。」
「え?」
「次は、ないからな。」
「っ!」
それって。
「別に諦めた訳じゃねー!ただ一時保留だ。」
「隼人。」
「巴!もしまたコイツがふざけた態度を取って泣かされたらいつでも俺の所に戻って来いよな!」
そう言い残し小銭をボンとテーブルに置き、早々にこの場を去って行った。
彼はまだ諦めた訳じゃないのだろう、けど店を後にする足取りは何処か軽く見えた。
ありがとう隼人。
貴方とは今後も良い仲でいたい、勿論友人として。
次回、80話に続く。