ジュディー-9
「ヘドロ清掃作業員? 何それ?」
「だから川に入って川底のヘドロを取り除く仕事をしている人」
「その人が着る服?」
「いや、だからそれとはちょっと違うけど、見た目は似ているんだよな、これが。店員が言うには着れば全然違うって言うんだけど」
「それで着てみたの?」
「着る訳無いだろ。僕の服じゃないんだから」
「だったら私が試着しないと買えないじゃないの」
「うーん。だから僕もそう言ったんだけど、伸びるから大丈夫だって言うんだ」
「伸びるのか。そんなのあったかな。まあ、伸びるんだったら大丈夫だと思うけど」
「僕は初日だから緊張して疲れたのかな。何だかお腹が空いてきちゃった」
「そんなの緊張と関係無いわよ。焼き肉食べてからもう5時間以上経ってるんだもん。お腹が空くに決まってるでしょ?」
「そうだな。そう言われればそうだ」
「ステーキでも食べて帰ろう」
「ステーキ? 又肉か」
「肉は嫌い?」
「いや、嫌いじゃないけど、肉ばかり食べてると体の粘りが無くなるんだよ」
「それは私が教えたんじゃないの」
「そうか? ジュディーが言ったのは野菜を食べると体に粘りが出ると言ったんじゃないか」
「同じことじゃないの」
「まあそうか。どうも僕は、人から何か聞くと聞いた瞬間から僕自身の知識だと思いこんでしまってね。昔々から知ってたような気になってしまうんだ。そういうことって無いかな?」
「無い」
「無いか。僕だけか」
「いい性格してるのね。それでステーキは厭なの?」
「いや、ステーキでいいよ。タレントがマネージャーに合わせるなんて話が逆だから」
「そうね。私が王様でキヨシは家来なんだから」
「それを言うなら王様でなくて女王様なんだろう」
「ああそうだった。私が女王様なんだからキヨシは私の靴だって舐めなくちゃいけないのよ」
「それはSMだろ」
「此処にしよう」
「僕は1番量の少ない奴でいい」
「ステーキが厭ならハンバーグだってあるわよ」
「同じだよ」
「何が?」
「どっちも肉の塊だ」
「文句言わないの」
「はい、女王様」
「良し良し。それじゃ私と同じのを食べなさい」
「何を食べるの?」
「サーロイン500グラム」
「それじゃ僕もサーロインでいいけど200グラムにする」
「そんなの無いの。300グラムが最低」
「それじゃ勿体無いけどそれにするか」
「サーロイン500を2つ」
「あっ、300グラムって今言っただろ」
「私と同じにしなさいって今言ったでしょ」
「え? 量まで同じにしろって言ったの?」
「そうよ」
「それは無理だよ」
「無理でも食べるの」
「まるでフォアグラだな」
「何それ」
「口を開けさせてポンプで送り込むんだ。機械で無理矢理食べさせるんだよ」
「それじゃ食べられなかったら私が詰め込んで上げるからね」
「御親切なことですな」
「嬉しいでしょ。ジュディーにこれだけ親切にして貰える男性は幸せなのよ。みんなそんなこと夢に見てるんだから」
「悪夢だな」
「何?」
「何でも無い」
「ほらほら、残したら駄目じゃないの」
「そんなこと言ってももう無理だ。ほら、お腹がこんなだ」
「口を開けて」
「無理だってば本当に。もうこれ以上入れたらそのまま下から出てくる」
「馬鹿。汚いこと言うんじゃないの。マナーを知らない人ね」
「まーな」