ジュディー-6
「ひょっとしてキヨシは童貞なんじゃないの?」
「マネージャーの私生活に興味を持つんじゃないの。そんなことはどうでもいいの」
「へー、やっぱり童貞だったんだ」
「それは原子力潜水艦と同じ答えしか出来ない」
「何それ?」
「核を積んでいるとも言えないし積んでいないとも言えない。要するにノーコメント」
「何気取ってるのよ」
「さあ、着いた。中に入ったら僕は直ぐに出て、撮影が終わる頃には戻ってくるから」
「セクシーな服装の研究ね。いいのがあったら買ってくれる?」
「ああ、ジュディーの衣装代は限度があるけど全部会社もちだから」
「それじゃ男が見るだけでガビーンて立ちそうな服を買って来て」
「そんな服ってあるのかな」
「だからそういうの探して」
スタジオの近くには予め調べた資料によると2軒のアダルトショップがある。しかし2軒ともいわゆる大人のおもちゃと本・ビデオの類ばかりで、衣装は2軒とも下着類しか置いていなかった。
「お疲れさま。どうだった? 撮影は」
「うん。ちょっと疲れた。何か食べたい」
「そうだな。何が食べたい?」
「焼き肉食べたい」
「焼き肉か。それじゃテレビ局が赤坂だからそっちへ行って焼き肉屋を探すか」
「赤坂の焼き肉屋なら探さなくても知ってるわ」
「そうか。僕は赤坂とか六本木なんて余り行ったこと無いから」
「田舎者?」
「違うさ。僕は東京生まれの東京育ち。赤坂だの六本木だの行くのはお上りさんなんだよ」
「行ったこと無いから負け惜しみ言ってる」
「本当さ。原宿の歩行者天国で踊ってる若者達ね、あれはみんな茨城だの群馬だの栃木だのから朝早く出てくるんだ。東京に生まれて東京に育った者は、何処か見物すると言ったら逆に地方へ出かけてしまうから案外東京を知らないもんなのさ」
「そういうもんなの?」
「そう」
「それじゃ焼き肉屋に案内して上げる」
「これは高そうだなあ」
「お金持って無いの?」
「いや、金ならあるさ。ジュディーの衣食住は全部会社負担なんだから。その代わり給料が安いんだろうけど」
「本当。裸になって暑い思いして給料は雀の涙」
「裸になって寒い思いしての間違いだろう」
「違うわ。ライトが暑いのよ。あんな強烈なライトを近くから当てられるんだもの」
「あそうか」
「裸になってあのライト当てられて近くからパチパチ撮られてごらん。まるで内蔵の中まで撮られてるみたいに思っちゃうから」
「そうか。まあ楽な仕事って無いもんだなあ」
「ところで何か買ってきたの?」
「何かって?」
「だからセクシーな服」
「ああ、無かった」
「無かった? そんなこと無いでしょう。パチンコでもやってたんじゃないの?」
「失敬な。僕はパチンコなんかやったことが無い。ああいうのは騒々しくて性に合わない」
「それじゃ麻雀とか」
「僕は賭事は一切やらないんです。大体経理なんて仕事を選ぶ人間は賭事なんかやらないような人が多いんだ。それでなきゃ困るだろうし」
「気に入った服が無かったの?」
「いや、大人のおもちゃと本とビデオと下着はあったけど、服は無かったんだ」
「あー、なるほど」
「あのね、金は心配要らないんだけど、そんなに注文していいのか。食べてから足りなかったら又注文すればいいじゃないか」
「え? 勿論又注文するよ」
「何? これだけ頼んでまだ注文するの?」
「そうよ。何で?」
「だっていくつ注文したと思ってる? 肉だけでカルビが3つ、レバサシが3つ、ロースが3つだろ? そんなに食べれるのかい?」
「だってキヨシも食べるんでしょ?」
「それはまあ食べるけど僕はカルビが1つとご飯があればいいんだ」
「カルビ1つ?」
「うん」
「1つって1皿のこと?」
「そりゃそうさ。いくらなんだって1切れじゃ足りない」
「1皿なんて焼いてしまえば1口よ」