シルビア-6
「何て格好して座ってんだよ、もう」
「このパンツだとこういう風にしか座れないのよ」
「だから変な服着るんじゃ無いって言うんだよ」
「だってスカートは厭だって言ったじゃない」
「もっと別のズボンだってあるだろ」
「他のはタイツみたいな奴ばかりだから竜太郎、もっと恥ずかしい思いすることになるよ。股間の膨らみがそのまま出るような奴だから」
「それだって似たようなもんじゃないか。何でそんなのばっか買うんだよ。ダブダブの繋ぎでも着たらいいんだ、修理工が着るみたいな」
「そんな服着せたいの?」
「そう、着せたいの」
「でもね、私からセクシーを取り去ると何も残らないからね」
「良く分かってんじゃないか」
「馬鹿。ちょっと謙遜したのよ」
純子は竜太郎と同じクラスの子で、利発な所が顔にも動きにも出ているような感じである。動作が外人のように大袈裟で喋る時にも手や顔をいつも動かしている。姉ちゃんは自分に似ていると言っていたがそんなことは思ったことも無かった。改めて良く見るとやっぱりとても可愛い顔をしていると思うだけで、シルビアに似ているとは思わなかった。一体何処が似ていると思ったんだろうと不思議だった。アメリカから来ているロック・グループの演奏を2人で見に来たのである。ギタリストが中心のグループで、ボーカルもいるが、ボーカルの合間に演奏されるギターの超人的なテクニックのプレイが売り物である。天馬空を駈けるという感じの演奏で、エコーをいっぱいに効かせたその音は会場を興奮のるつぼに追いやった。
「凄かったわねぇ」
「うん。良かっただろ」
「ええ、聞いたのは初めてなんだけど、とても良かった。興奮しちゃった」
「うん。何か体中が震えて電気が走ったよ」
「本当。そんな感じね」
「でもお陰で腹減っちゃった」
「そうね」
「何処か食べに行こう」
「私、駅の近くに安くておいしい熊本ラーメンの店があるの知ってるんだけど、そこに行かない?」
「熊本ラーメンってどんなの?」
「スープが白いの」
「白い? 湯麺みたいなラーメン?」
「ううん、全然違う。濃厚な豚骨の味」
「へーえ。それじゃ其処に行こう」
「へーえ、これは変わったラーメンだね」
「うん。ちょっと食べてみて」
「あ、これは美味しい」
「ね?」
「うん。田丸、熊本の出身なの?」
「違う。雑誌に紹介されてたから前に食べに来たことがあるの」
「そうか」
「何て、本当は前に付き合ってた男の子が熊本の出身で此処を教えてくれたの」
「え? 前に付き合ってた?」
「うん」
実は竜太郎は純子が人生初めてのガール・フレンドで、しかも学校以外の場所で女の子と二人になるのは、初めての経験だった。それなのに純子が前に熊本出身の男と付き合っていたと聞いて驚いた。学校に熊本出身の奴がいるという話は聞いたことないし、何処の男と付き合っていたのだろうか。まあ純子ほど可愛いければボーイ・フレンドとの付き合いも竜太郎が初めてでなくて当然かも知れないが、やはりちょっと傷ついた感じがするのは否定出来なかった。そいつに教えられて気に入った店となると何だか急にこの熊本ラーメンが不味く思えてきて食べきるのに苦労した。純子は当然家まで送って貰えると思っていたようだが、竜太郎はちょっと母さんと会う用があるからと言った。