シルビア-4
「どうしていちいち相手になるんだよ。あんなの無視すればいいのに」
「そうするとね、お高くとまりやがってって絡んで来る奴がいるのよ。私だって好きで相手にしてる訳じゃないの」
「そうか。大変なんだな」
「そうよ。目立つっていうのはいろいろ大変なのよ」
「可哀想に」
「可哀想に? そんなこと言うの竜太郎でなきゃぶっ飛ばしてるところだわ」
「どうして?」
「そう思ってるなら何で私とデートしたがるのよって思っちゃうじゃない」
「なるほど」
2人の母親の店が入っているビルは渋谷駅の近くで、シルビアが目を付けたジュエリー・ボックスを売っているのは渋谷と原宿の中間くらいの所にある店だったから、2人は日曜で身動き出来ない程の人混みの中をだいぶ歩くことになった。渋谷は坂の多い街だし人とぶつかりながら歩くような混雑だから、シルビアはますます竜太郎にきつくしがみつく。しかしこの街では奇抜な服装がそれ程目立たないのでその点は多少気楽である。シルビアの髪の色も此処ではそれ程目立たない。何しろ虹のように七色に染めてその上奇妙な形に逆立てているような若者だっているのだから。パンク・ファッションと言うらしいが、あれは頭の中身がパンクしているという意味なのだろうか。
「ねえ。姉ちゃん何で髪を染めないの? 黒とか茶とか」
「1回やったことあるけど駄目なのよ」
「何で? 染まらないの?」
「染まるよ。だけどその後伸びてくると根本の部分が白く見えてまるで白髪染めしてるみたいに見えちゃうの。格好悪くてしょうがない」
「そうか。それは格好悪いな」
「それにね、髪は染められても肌は染めらんないでしょ? この肌で黒い髪だとおかしくて見らんないのよ」
「そうかも知れないね」
「竜太郎、姉ちゃんがこんな顔と髪で厭だなって思うの?」
「思わないよ」
「本当?」
「うん」
「それじゃ何で姉ちゃんと一緒に出歩くの厭がるの?」
「みんなが見るから恥ずかしい」
「みんなが見るから誇らしいと思いなさい」
「思いなさいって言ったって恥ずかしいものは恥ずかしいもん」
「それ重くない?」
「段々重くなってきた」
「もう直ぐ1つ減るから軽くなるよ」
「うん。僕、此処で待ってるから」
「どうして? 置いて出てくるだけよ。姉ちゃんにそんな重い物持たせるんじゃないの」
「分かったよ」
母さんは全身黒ずくめの服装で、色だけはシルビアと一緒だがシルビアが全身ピッタリと密着しているのに対して、母さんのは逆に全身からヒラヒラと奇妙な布が飛び出していて、脱いだらおよそ服には見えないに違いない。着ていたって服のようには見えないのだから。何かボロ切れを適当に体に付けたような感じで、その上大袈裟な装身具があちこちに付着している。化粧も舞台化粧が薄化粧に見えそうな毒々しさで、彼女の周りだけが何か別の宇宙を形成しているかのような雰囲気がある。しかし幸い日曜で店は混雑していたから2人はロクに話す暇も無く直ぐに出てくることが出来た。