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シルビア
【青春 恋愛小説】

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シルビア-3

 翌日竜太郎は「さあ行くよ」と言いに来たシルビアを見て驚いた。確かにスカートでは無いが、まるでタイツのようにピッタリしたエナメルのズボンに上は肩紐のない胸までの皮の服でこれもピカピカ光るエナメルである。胸も尻も膨らみがテカテカと光ってまるで肌に直接エナメル塗料を塗ったみたいな感じに見える。
 「それは何だよ、一体」
 「これ? これはビスチェって言うの」
 「名前なんか聞いて無いよ。上に何か引っかけたらいいじゃないか」
 「こんな暑い日にジャケットなんか着たくない」
 「それにそのズボンは何だよ、一体」
 「これはね、高かったのよ。いくらしたと思う?」
 「値段なんかどうでもいいよ。どうしてそうド派手な服装ばかりするんだよ」
 「しょうがないでしょ。私の顔と髪を見てごらん。それに合わせればどうしてもこうなっちゃうんだから」
 「そんなんじゃ、ステーキ1回くらいじゃ割に合わない」
 「いいわよ。何度でも連れていって上げるから」
 「金だけ貰って1人で行くよ」
 「高校生が1人で行ったって入れてくれるもんですか。超高級レストランなんだから」
 「高校生でも入れてくれるような店で食べるからいいよ」
 「可愛い弟に美味しい物食べさせたいっていう姉心なのよ。さ、行こう」

 シルビアは高いヒールのブーツをエナメル・パンツの上から履いているから竜太郎よりも背が高い。背が高いのは関係無いと言ったけれども、竜太郎はやはり自分より背が高い女と歩くのは気が進まないのである。それに只でさえ目立つシルビアが、まるでピンナップ写真から抜け出して来たような服装をしているのだから、竜太郎が危惧した通りすれ違う人は皆見ている。シルビアは見られることに慣れているから何とも思わないが竜太郎は慣れていない。酷く居心地の悪い思いをしながら渋々シルビアと歩いている。シルビアは高いヒールを履いているから竜太郎の腕をがっちり握って歩く。それが竜太郎には余計気恥ずかしい。

 「そんなに早く歩かないでよ」
 「ゆっくり歩くのに慣れてないんだ」
 「下向いて歩かないで胸張って歩きなさい」
 「恥ずかしくて顔上げられない」
 「恥ずかしがること無いの。竜太郎が恥ずかしいんなら私はどうなっちゃうの?」
 「姉ちゃんは慣れているからいいさ」
 「だから竜太郎も慣れなさい」
 「慣れないよ、こんなの」
 「いつも私と一緒に出歩けば慣れるわよ」
 「冗談じゃ無いよ」
 「姉ちゃんと出かけるのを厭がるんじゃないの。店の客なんか一緒に歩いてくれれば何でも買ってやるって言うんだから」
 「店の客は高校生じゃ無いだろ」
 「当たり前よ。高校生が飲みに来る訳無い」
 「買い物は何処でするの?」
 「渋谷。昨日母さんに『私にも1つ買って欲しい』って頼まれたから2つ買うことになっちゃった。重いけど大丈夫かな」
 「大丈夫だよ。ジュエリー・ボックスくらい重くてもたかが知れてる」
 「それでね、1つを母さんの店に届けるのよ」
 「え? 僕が?」
 「だから2人で行くの」
 「そんなの話が違う」
 「何で? 届けるだけでしょ。直ぐよ」
 「それじゃ僕は近くまで持っていってやるけど、店には入らないからね」
 「自分の母さんをそんなに毛嫌いするんじゃないの」
 「別に毛嫌いしてない」
 「毛嫌いしてんじゃない」
 「あの魔法使いみたいな格好みたら誰でも逃げ出すよ。それが僕の母さんときてるんだから信じらんない」
 「あれが竜太郎の父さんの好みなんじゃないの?」
 「まさか」
 「聞いたの?」
 「聞いてない。もう何年も口なんかきいたこと無い」
 「それで母さんの店に届けてから赤坂に行って食事するから」
 「渋谷でいいじゃない」
 「赤坂にいい店があんの。和風で個室になってるのよ。肉はもう最高よ、溶けそうなくらい柔らかいんだから」
 「別にそんな柔らかい肉じゃなくていいけど、個室っていうのは気に入った」
 「どうして? 姉ちゃんと2人きりになりたいの?」
 「うん。そうすれば誰にも見られないから落ち着いて食べられる」
 「あ、なるほど。人に見られるのが厭なんだ」
 「そうさ。前に焼き肉一緒に食べた時なんか隣のテーブルのお客がやたら話しかけてきてうるさかったことあるじゃないか」
 「ああ、そんなことあったね。私が1人でレストランに入るとそんなことしょっちょうだけど」


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