シルビア-26
「そうなのかな。奥さんは死んだって言ってたけど」
「それじゃ愛してる奥さんが死んだショックとか」
「うーん、そうかな」
「やっぱり違うな」
「何で?」
「だって禿は遺伝だって言ってた」
「こら、姉ちゃんをからかうんじゃないの」
「だって今思い出したんだ」
「そう言えばそんなこと言ってたわね」
「それでそいつと結婚すんの?」
「うーん。まだ分かんないけど、金持ちと結婚すれば楽なのよね」
「マドンナみたい」
「何が?」
「マテリアル・ガール」
「それどういう意味?」
「計算高い女」
「計算は苦手よ、姉ちゃん」
「でもしっかり計算してんじゃないか」
「母さんの娘だから」
「なるほど」
「どう思う?」
「何が?」
「だからあの親父のこと」
「いいと思うけど1つだけ言いたいことがある」
「何?」
「鬘なんかさせないで現実をあるがまま受け入れなさい。逃避は良くない」
「このぉー」
結局純子が遊びに来た時は母もシルビアもいつもどおりの服装だった。つまり母は珍しく黒では無かったが濃い紫色のボロ切れのような服装にいつも通りじゃらじゃらと装身具をくっ付けていたし、シルビアは羽衣のような服でおっぱいが透けて見える上に襟刳りが異常に大きいから、前屈みになると胸の奥まで簡単に見通せた。純子は目を丸くしていたが2人の服装やシルビアの顔形、髪の色などについては何も言わなかった。言うべき言葉が見つからなかったのだろう。しかし直ぐに立ち直ってそれらのことは目に入らないかのように自然に振る舞い、自然にお喋りしていた。母は家庭的な所など全く無くて料理くらい作ると言ってはいたが、結局注文して外から取った。でも初めて息子が連れてきたガールフレンドに興味津々の様子で、何処が気に入ったのか嬉しそうな顔で精一杯歓迎している。シルビアの方も初めて見る純子をいろいろ質問責めにしている。学校で竜太郎が結構女の子にもてていることを知ると酷く満足そうな顔をした。
「私には分からないけどこれでも竜太郎にはセックス・アピールがあるのかしら」
「高校生はセックス・アピールなんて関係ないの」
「あら、そんなことはないわよ。男には男のセックス・アピールがあるし、それは年齢に関係ないの」
「ふん。それじゃ僕にはセックス・アピールがあるんだろ。だから僕は、そんなネグリジェみたいな服を着なくてもいいんだ」
「あら、これはネグリジェみたいな服じゃなくてネグリジェなの」
「え? お客さんが来てるっていうのにネグリジェなんか着てるの?」
「ううん。もともとはネグリジェなんだけど、襟刳りが大き過ぎて寝ている間に脱げちゃうから外出着にしたの」
「何だそれは。普通は逆なんじゃないの?」
「逆って?」
「直ぐ脱げるからみっともないんで外は着て歩けないから寝間着にしたっていうなら分かるんだ」
「ああ、そういう意味か。姉ちゃんは竜太郎とは思考回路が違うのよ」
「それは知ってる」
「それにこのネグリジェは輸入品でとても高いの。滅多に日本では手に入らないのよ」
「誰も手に入れようとしないから輸入しないだけだろ」
「ところで、もう2人はABCを経験したんですって?」
「ABCじゃなくてACBだって言っただろ」
「ああ、あれですか。私そそっかしいからABCだとばっかり思ってて」
「え?」
「そしたら、良く見たらACBだったんですよね。恥かいちゃった」