シルビア-14
「うちはちょっと特殊なんです」
「特殊でも一般でも金に関することはお父さんに頼むのが筋なんだよ」
「そうですか」
「いいよ、頼まれて上げる。その代わり私の頼みも聞かなきゃ駄目よ」
「姉ちゃんの頼みって何?」
「それは後でうちに帰ったら言うから」
「出かける用事でなきゃ何でもいいよ」
「出かける用事」
「又か」
「竜太郎君が羨ましいな。私が代わって上げたいくらいだ」
「それじゃ代わって下さい」
「竜太郎でないと駄目なの」
「まあ当分デートも無くなっちゃったから暇だけど」
「そうだったね。純子ちゃんとはその後やっぱり上手く行ってないの?」
「純子ちゃんじゃない」
「田丸さんって言ったっけ」
「うん。あいつとはもうどうでもいいんだ」
「私の妹なのに」
「シルビアの妹? シルビアに妹がいるの? それが竜太郎君の彼女?」
「違います。写真の顔が姉ちゃんに似てるって言うんです。髪を染めれば私の妹に見えるって」
「ああ、そうか。驚いた」
「私が妹のボーイ・フレンド連れてきたと思ってるの?」
「いや。2人の話を聞いてれば2人が姉弟だってことは分かる」
「何よ、一瞬焦ってた癖に」
「いや、話が突然分からなくなって混乱しただけさ」
「やっぱりでんでん虫よりステーキの方がいいね」
「でんでん虫食べたこと無い癖に」
「でんでん虫なんて言うと如何にも不味そうに聞こえるね」
「言い方変えても出てくる物は同じでしょ」
「まあそうなんだけどね」
「この間姉ちゃんと食べた店とどっちが美味しい?」
「そうだなー。どっちも美味い」
「味なんか分かりゃしないんでしょ?」
「そんなこと無い。この間の熊本ラーメンは不味かった」
「そんな物何処で食べたの?」
「渋谷で」
「渋谷で? いつ?」
「鯨食べた日」
「鯨食べた日? あっ、そうか。純子ちゃんと食べたんだ」
「田丸」
「田丸さんと食べたんだ」
「そうだよ」
「田丸さんと喧嘩したから不味く感じただけじゃないの?」
「別に喧嘩なんかしてない」
「そうお? 処女じゃなかったからって責めたりしては駄目よ。そんなの時代遅れなんだから」
「そうだよ。竜太郎君、男は女の過去に拘ってはいけないんだ」
「そんなもんですか」
「そうさ。女なんて自分が付き合っていきながら自分の好みの女に作り変えるくらいのつもりでいなきゃいけないよ」
「自分の好みの女に作り変える?」
「そうさ」
「僕の好みの女って?」
「だからどういう女性が好きなんだい?」
「さあー。そんなこと考えたこと無いなあ」
「姉ちゃんみたいな女でしょ」
「姉ちゃんみたいで無い女かな」
「馬鹿。純子ちゃんのこと今でも好きなんでしょ?」
「純子ちゃんじゃない、田丸」
「田丸さんて可愛いじゃないの」
「可愛く無いよ。あれで髪を染めたら姉ちゃんになってしまう」
「あっ、認めたな」
「嘘だよ。似てないよ、全然」
「そんなこと無いわよ。眼と鼻が似ているわ」
「全然似てない」
「どっちが美人?」
「どっちも酷い」
「シルビアに向かってそんなこと言えるっていうのは弟の特権だな」
「別に言ってもいいんですよ。ブスだと思ってるんなら」
「だからこれだけの美人捕まえてそんなこと言えるのは身内だからだよ。他人が言ったって誰も本気だとは思わない。逆説的に口説いている厭な手口だと思われてしまう」
「何ですか? それ」