互恥明永続-2
昼間のことは、夜のベッドでみなみには話そうと思っていた。
あの後、先祖代々のありがたい伝承事なのか、それとも誰かが突発的に思いついたことなのか、臣吾は後者ではないのかとの疑念を拭えなかった。
文末に、「この内容は、先祖代々口頭で受け継がれてきたものを、善兵衛がしたためたものである」と、ご丁寧に記されている。
善兵衛というのは、臣吾の曽祖父にあたる人物であることは、さきほど祖父に確認済みなので、間違いはない。
「善兵衛さんの自作自演かもしれないよなぁ」
善兵衛さんより3世代前だとしても、1世代25年から30年間隔とすると、170、80年前。1840年代と推定すると、天保の改革とかの辺りだ。
その頃には、フェチ的な性の文化が存在したのだろうか。日本の性の歴史に明るいわけでもないので、勝手に想像するしかないのだが、6世代以前からの伝承とするには無理があると思った。
だとすると、3世代前の善兵衛さんが自ら作り、先祖からの伝承と勝手に作り上げたとするのが無理のないストーリーだろう。
それでも、目の前に突き付けられたことを無下にすることも出来ない。
逆にこれを受け入れるとすれば、今の夫婦の性生活には大きな刺激にはなる。かなりディープ過ぎるが・・・・・・
この間の夜の出来事から、2人のSEXライフは変わりつつあった。
今までは、子作りという見えないプレッシャーの下、今考えるとある意味義務的と言っていいSEXだった。
それが徐々に、相手のココロとカラダを充たしてあげようという奉仕心が芽生えてきている。と同時に、SEXが恥ずかしいことという感覚から、SEXは気持ちのイイものだという感覚へと変化してきていた。
抵抗が見られた行為、例えばクンニリングスなども、まだまだ恥ずかしがってはいるものの、以前に比べれば、受け入れてくれるようになった。
種の岩のことは頭の中にあるようで、野外行為には少なからず興味を持っているはず。この流れでいけば、変態的な行為も前向きに受け入れてくれるかもしれない。
臣吾自身が、どこまで深い性の世界に興味があるのか自覚していない。みなみ自身の興味もどの程度なのかわからない。
けれど、お互いの秘めていた性への想いは、少しづつだけではあるが、相手に伝えられる関係になりつつある。
週1、2回だった営みは、2日に1回以上のペースになり、定休日の前には1晩に2回の日もある。
昨晩は定休日前でもあり、激しい夜だった。
今日は、どうかなと思っているが、なんとなくではあるが、雰囲気的にやる気はあるように見えた。
いつもの通り、息子を寝かせつけるみなみ。
その間、臣吾は書斎スペースでネット検索していた。
「けっこうあるんだな」
『先祖代々』『言い伝え』をキーワードに検索してみた。
そうすると、意外と多いヒット数。
中には「作り」とすぐわかるような内容もあるけれど、いたって真面目な内容もあるので、善兵衛さんの執筆物も、あながち冗談めいたものではないかもしれない。
「むむむ・・・・・・」
無意識に悩み声を出している臣吾。そこにみなみがやって来た。
「どうしたの?唸ってるみたいだけど」
「ああ、別に大したことじゃないんだけど」
今すぐこの場で、「フェチプレイに興味ない?」などと直球は投げられない。
「調べてるとこごめんね。ちょっとゴソゴソするね」
そう言って、書斎の隅に置いてある棚を探り始めた。
「奈々さんがね、指輪を手直ししてくれるんだって」
「そうか、奈々さんはジュエリーデザイナーだからね」
奈々子は、インターネット上で宝飾デザインの店をオープンしている。
何人かの上客もいるようで、いい小遣い稼ぎだと聞いたことがある。
「そうなの。たまたまその話になって、惜しいデザインの指輪があるって話したら、好みのデザインにしてあげるよって言ってくれたの」
「ふーん。そんなやつあったんだ」
「そりゃそうよ。全部が全部完璧に自分好みなんてなかなかないでしょ。アクセサリーだってそう。もう少しこうだったらいいなぁって思うのがほとんどだよ」
「そんなもんかなぁ」
アクセサリーやファッションにはほとんど興味のない臣吾には、ピンとこない話題だった。
「あれ!?引越した時に整理して以来だから、思い違いかなぁ」
お目当てのアクセサリーが見当たらないのか、ゴソゴソし続けている。
片付け上手なみなみにしては、珍しい光景だ。
「何を探してるの?」
ネット検索をしている手を止め、椅子事振り向いた。
「あっ!」
臣吾は思わず声を上げそうになった。
棚を探っているみなみが、お尻を突き出した恰好をしていたからだ。ややダボついたスウェットだが、お尻を突き出している分、ヒップ部分がピタッと張り付いた感じになっていて、パンティーラインがクッキリと浮かび上がっている。
そのままバックでの挿入を求めているかのような恰好に、臣吾は思わず息を飲んだ。
ふらふらと、みなみのお尻まで歩み寄る臣吾。
無言で跪き、突き出たみなみのお尻に頬ずりをした。
「あんっ、いやん」
否定的な声を上げたみなみだったが、その声色は、これから起こることを期待するかのような甘い声だった。
「ちょ、ちょっとぉ」
手で払い除けようとするみなみ。しかし、本気で払おうとしていない。
頬ずりを続ける臣吾。
「待ってよぉ、い・・・やぁん」
スウェット越しの頬ずりながら、みなみのお尻の感触を確かめる。
以前だったら、こんな行為をするなんて考えてもみなかった。
ちょっとしたキッカケで、豊かな性生活を送れるとは、夢を見ているみたいだった。
臣吾もみなみも、この瞬間、同じことを考えていた。