隠し部屋での工芸──禁断の工房-1
その手にガラスのペンを持って、精巧かつ精緻な図柄を刻み込むと、輪郭は完成した。
最初に選ばれた顔料は銀の粉末だった。
アルコールランプで暖められた膠は頃合いに滾っている。二ヶ月の夜を徹して蜂の中で微細に砕かれた金属は、膠との出逢いで見事に滑らかな塗料に生まれ変わる。厚みは何ミクロンだろうか。一度、二度、三度と繰り返し斑無く塗られたその表面は削り出しの金属と外見上そう変わることはない。
取りあえず膠が乾くまで専用の感想容器に入れる。
万に一つも許されない品物だ。
乾くまでの間は夜をいくつ潰そうと触れてはならない。
その間に調合する様々な顔料は、宝石を砕いた者がほとんどという効果で貴重な物だ。紅玉も紫玉も、硬度は9。刻み砕く物は金剛石しかない。とある顔料を作るのに、世界で最も高価な石をさらに砕いて使わなくてはならないことに皮肉な物を感じる。
擂り鉢の中で、飽くことなく地道に、辛抱強い研磨が続く。
諦めないこと。続けること。それは歓びであり苦痛であり、目的は悲しい物だ。
本当にそれが必要な事なのか、解らないからだ。