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黎明学園の吟遊詩人
【ファンタジー その他小説】

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奏でられる重低音──アイソトープ・レインの選択-2


 由子に引っ張られてきたのは隣のマンションの一室だった。レインが居た部屋と違って、扉が二重になっている。特に二枚目は分厚く重い。
 そしてレインが見たのは、実に様々な機械の群だった。ドラムやギター、ベースは解るが、鍵盤が四つもある機械はどんな音が出る物なのか、想像も出来ない。それに、林檎が囓られたシルエットを持つ不思議な輝く窓の付いた機械。足下にも小さなペダルが並び、多分アンプなのだとは思うのだが、明らかにレインの知っている物とはコントロールパネルが複雑すぎた。そして二人の少年と美麗な少女。それらをバックに由子は両手を大きく拡げた、
「じゃ〜〜〜ん! 『廻天百眼』にようこそ! あなたが5人目のメンバー、欠けたピース。私たちの運命を決める鍵! 紹介するわ、オン・ドラムス&エンジニア&なんでもかんでも! 『小倉圭介』こと『ケイスケ』!」
「やめろよ、こっぱずかしい。そいつがお前ぇの見つけたってベースだろ。能書きはいいからよ、音で答えな」その小太りの少年は光り輝く画面を手元の煩雑な機械で操作しながらそう言った。
「オン・ギター! 『斉藤明』こと『アキラ』!」
「……………………………………………………………………。」
「表情が乏しい上にボキャブラリーもなし! 最低だけど最高のアレンジャーよ。そしてオン・キーボード! 天上天下、神をも恐れぬ美少年、『内藤あまね』こと『あまね』!」
「……僕をいじるのやめてよ……」
「男?冗談みたいだな……」レインが呆れてあまねを上から下まで舐めるように見つめる。あまねは胸を抱えて怯えていた。ショートパンツとオーバーニーハイソックスとの間の柔らかそうな「絶対領域」が犯罪的なほどなまめかしい。
「そして! 作曲とボーカルの歌姫!『白石由子』とは私のことよ!」人差し指を高く掲げて由子が宣言した。全員が凍る。
「な、な、なによ! みんなに紹介するわ! はるばる「フィヨルド」から降臨した我らの欠けた鍵。オン・ベース! アイソトープ・レインよ。みんな仲良く世界征服しましょう!」
「馬鹿な夢を見れるのは若い内だけだ。せえぜえ頑張ろうぜ」ケイスケが辛うじて纏めた。
「さあて、これからが問題よ。三択! アイソトープ・レイン、あなたの恋人はこの三人のうち誰かな〜?」
 レインの目の前には三本のベースが立てかけてあった。由子がアンプのスイッチを入れる。僅かなノイズが響きアンプ自体が輝いたように感じた。
 アンプについちゃ考えたんだけど、あなたの出している音から推理してこれにしたの。Ampeg SVT 300W。抜群のパワーとドライブ感は最高よ。さあ〜て、順番に弾いてみて! どれもいい女だからね。
 レインはおそるおそる、しかし灰色の瞳を輝かせて一本目を握り、灰色の髪の毛を避けてストラップを肩に掛けた。茶色のサンバーストの、かなり渋い色と形。短いパッセージを刻んでみる。ケイスケが驚いたように眼を見開いた。アキラでさえ年に一度見えれば奇跡と言われた瞳を露出させた。あまねは両手を口に当てて大きな目をさらに大きく見開いている。
「うん。これは熟れきった年増の色気ってやつかな。よく伸びる。アンニュイなやつには最高だな」残念ながら、レインの言葉は『影』を歩く物にしかわからない完全な外国語だ。レインは早くもFender USA 1965 Jazz Bassを肩から下ろすと、次のボディの薄い、角の飛び出たベースを肩に回す。同じパッセージを繰り返す。
「派手だが、ちょい深みに欠けるかな。ハイポジションは凄く楽だけどね」レインはRickenbacker Model 4001C64Sをもう一本の小振りなボディのベースに持ち替える。
 そして同じパッセージを弾いた途端、レインの顔色が変わった。そしてもの凄い勢いで指を弦に叩きつける。スタジオ全体が咆哮した。他のメンバーは夢中でベースを弾きまくるレインのサウンドに完全に圧倒された。
「………………………こりゃあ、驚いた。こんなのに巡り会えるとは思わなかったよ」レインの目元に光る物が浮かんだ。
「………お前を一生離さないからな」レインはその滑らかなセットネックを掌で包み込んだ。
 レインのその答えを聞いて由子はにっこりと笑った。
「最初からそれを選ぶとは解ってたんだけどね。でも、恋人は自分で選ぶものよ」
 レインが選んだ一本はGibson '65 EB-0のチェリーだった。


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