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黎明学園の吟遊詩人
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混乱と破綻、破滅のレジェンド──「七月のムスターファ」-4


 薫は席に着くなり発言する。
「現在、正確には6分35秒前にHundredsに異変が発生発覚確認された。その解析対処体制について逐次可能性を考慮しての意見を求めこれを実行する。谷田君、説明を」
 痩せた飄々とした男、谷田がアウトプットデータを手に眼鏡を直した。
「えーと、顕著なのは知能指数関数曲線のランダムな上下振動ですね。ま、秀才が天才になったり白痴になったり時間の推移と共に変化すると。こりゃ『アルジャーノン現象』と仮称します。他に例がありませんからね。それに同期するように身体的変化も顕著と。研究全体に関わる重大な問題と考えるほかありませんねー」
「ふん、『アルジャーノン現象』とは上手い思いつきだな」
「しかし、『アルジャーノンに花束を』は外科手術がトリガーになった失敗だろう?外的干渉はないぞ?」
「遺伝子操作は外科手術よりもっと重大な外的干渉だろうが」
「今回の遺伝子操作は、100,000匹に遺伝子操作に相当する薬剤投与による穏やかなものだ。効果のあったマウスを交配させての繰り返しによる絞り込みによるもので、『アルジャーノン』とは違うだろう」
「僕もそう思ったから『現象』と付けたんですねー。知能が上下する現象自体がないのですよー。老人性痴呆とかアルツハイマーはありますけど、それは経年劣化であって成長過程には存在しないんですねー、あるのは先天性なもので、だんだんおりこうさんになってゆくのが理由もなくですねーお馬鹿になるのはないのですよー。生活的ストレスとか環境的ストレスとか外的要因が必須ですからねー」
「ひょっとして、隔離のストレスが今になって暴発した?」
「俺は自然の中に実験場を作って餌の獲得難度を徐々に上げて行く方法を提案したんだが」
「その方法では進化になってしまうので千年はかかるのですねーメインフレームの計算結果は出ているのですよ」
「やはり隔離性によるものかな」
「世代交代を何度も繰り返している。起きるなら初代で発生する」
「いや、知能が発達したからストレスが発生したんじゃないか?」
 ずっと沈黙していた薫が初めて発言した。
「もし仮に知能発達によるストレスの発生だとしたなら優良遺伝子の生産研究実践自体が完璧に否定される。クライアントが望んでいるのはあの迷路のような完全に変化しない環境を構造を維持することが必須条件だからだ。知能向上に付随する確実な弊害なら研究自体が破綻する。すなわち、この実験は失敗した挫折断念遮断隠蔽で終了する」
 モニター・ルームは完全に沈黙した。ディスプレイの知能指数関数曲線の波はもはや短波のレベルにまで上下していた。いくつかのモニタに示された特定の知能指数関数曲線の数が減り、身体情報のディスプレイには「Dead」の文字列が並び始めた。


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