狂【序章】-1
よく晴れた昼下がり。
学校の教室。
ざわざわとした教室の中で俺は一人冷たい焼そばパンを口にくわえていた。
『隆士』
名前を呼ばれて振り向くと隣のクラスの達也が『よぅ』と手を上げて入ってくるところだった。
『おぅ。何だ』
俺は特に目立って悪いと言う訳ではないが 俗に言うダラしない身なりとVIPな態度。それでいてこの口の悪さでクラスの中で俺に話しかけてくる奴は少ない。いわゆる『友達』って奴がいない。
『お前ケータイどーした?つながんねんだけど』
パカッと開かれた折畳み携帯の先で軽くこづかれる。
『あ そーだ。新しくして教えんの忘れてた。』
はぁ?という顔をする達也をよそに 俺はポケットから真新しい黒い携帯を取出し、折り畳まれた画面を開く。
『言うから登録しろよ。080-XXXX』
わざと早口で言う俺の言葉に 負けず劣らず達也の打ち込む早さが尋常でないのがボタンを押すカチカチという音で分かる。
『よしっ 登録完了!メアドは?』
『あとで送る』
一口大で残っていた焼そばパンを口の中に全て突っ込んで席を立つ。
ガタンと後ろにひかれた椅子が俺の後ろでカリカリと少女漫画らしきものを描いていた眼鏡女の委員長の机に当たった。
『あ…』
何やら線がはみ出したらしい。
『あ ワリ。ごめんな』
これ以上評価が下がらないように一応軽く謝っておく。
『…ぅうん。大丈夫』
おどおどしながらもニコッと笑う委員長。
……悪い癖だな。こういう奴はからかいたくなる。
ドSのサガって奴かな。
『委員長さぁ 眼鏡。 とったのがいんじゃね?』
自分の何もかけていない目を指差して顔を覗き込む。
達也は横でニヤニヤした笑みを浮かべている。
『ぁ…ぅん。ぁりがとぅ』
小ぃーせぇ声!
顔を耳まで真っ赤に染めてつぶやいた委員長に背を向けて『行くか』と達也の背を叩き教室を出た。
『お前さぁ あーゆーのやめたら?』
中庭で日焼けする為に寝転がる俺の横で 同じように仰向けで寝る達也は 目だけを俺に向け変わらずニヤニヤした顔で唐突に切り出した。
『何が』
太陽の日差しに目がやられないように目蓋を閉じたままぶっきらぼうに返す。