音楽兵器の幻想──喧噪の酒場にて-1
「こんな所だけど、このチキンはクリスピーでジューシィ。ワインは最悪だけどね」
まるで洞窟にいくつも松明を灯したようなその店は人々でごった返し、声は1メートル先の杉野まで届きそうになかった。「七月のムスターファ」議長の杉野二郎は、噛む度に油が迸る肉の腸詰めを噛み切り、それを強そうなジンで喉に流し込む。
「いいから、厨房のそばに座った髭面のデブ周辺の話を聞かせろ」
「何人もいるから、大筋の所しかわからないわ。とにかく、なんか深刻な話みたいだけど」
自分で不味いと言っていたワインを一気に飲み干しながら眼赤視は大声で喚く。そうでもしないとこの海底火山のような空気を破れない。
「なんか、集まっているのは『ユニオン』とかいう『影』を超えて繋がっている機関の組織員で、トラブルを抱えているみたいね」
杉野は首を回さずに目だけをそのテーブルに向ける。そこにいるかつての同級生とそれを囲む三人の一目で役人らしきグループ。
「とにかく『村長』が出張って来て居るんだ。当然『後片付け』だろうが、その騒動の内容が問題だな」
「いまんとこ、なんだか音楽の話と強力な小火器? いや、もっと強力な重機関銃? それと鍵盤と何の関係があるのかわからないけど。『皇姫』っていう危ない女が関係している」
「誘導しよう。傀儡を呼び出して一番寡黙な奴を乗っ取り『村長』の動機を聞き出すんだ。どうせ傀儡は眠らないんだろう?」
「……いつでも眠っている、とも表現できるのよ、それ」眼赤視が気分を害したように言う。
「かまわん。呼び出してお前の透視聴覚能力『ステルス』と奴の『人形遣い』を同期させろ」
杉野はそう言うと腰に巻き付けたバッグから折りたたみ式の二組のヘッドセットを取り出し、ひとつを眼赤視に渡し、もう一つを自分で装着する。
眼赤視は赤毛の間から除く目を細めて杉野を睨み付けながら、諦めたようにヘッドセットを装備した。そして目を閉じる。
「……速い。リンク完了」そして眼赤視と傀儡は目に見えない腕を交差させる。
「オート・ドライブするわ」そして俯いたまま、呟き始める。
「ところで、『村長』。なんでこの件がそんなに気になるんだ?/ああ、それはな、その事件にどうも俺のダチが複数絡んでいるみたいでな。/どういうダチだ?/まあ、同級生なんだがな。お前たちの方で言う『メンバーズ』みたいなものだ。/じゃあ心配だな。いや、心配になったのはお前達『ユニオン』情報部の話を聞いたからなんだけどな。そんな物騒な兵器で制圧された世界に関わるとなると、事だ。/『スタッカート』の原理はわからないが、構造は簡単だという所まではアレクサンドロス部長も掴んでいる。お前、記録だろ?いくら何でも文字を意味なくカテゴライズしているのかよ」
「オート・ドライブ切り替えだ。乗っ取ったやつが詳細を知っているくさい。寡黙な奴ほど口が固かったという話だな。手前のハゲに切り替えろ」