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黎明学園の吟遊詩人
【ファンタジー その他小説】

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黎明学園の朝礼──罵倒と猜疑に満ちたスケッチ-1


「んだからうちの生徒には手ぇ出してないって!」
「久仁子、淳子、やよい、恵令」淡々と指を数える照井。
「リップサービスまで勘定に入れんな! 女は蝶よ花よと褒めるのが男のマナーだろ!」
「お前ね、伊集院。全校生徒になんて呼ばれているか知ってる?」
「そりゃ、俺テニス部の部長だし、下級生からは『素敵な先輩』だろ。同級では『頼りになる男』、上級生からは『可愛い後輩』じゃん」

「……『歩く性犯罪』だよ、良かったな」
まるでケンシロウを見下ろすラオウのごとく。

 伊集院は瞬間冷凍された彫像と化した。その愛嬌を醸し出すために敢えて必要もない伊達眼鏡を片手で押し上げて照井を見つめる。
「冗談だとしても笑えねえよ! 俺ってそんなに黒いキャラかよ! 爽やかな好青年だろ? めっちゃ光を浴びる青春男に何を抜かす!」
 小太りの大男で髭面の、明らかに高校生とは程遠い外見を持つ照井は、実はこの私立黎明学園創立者の孫でありゆくゆくは学園の運営を任される重要人物だが、基本やたらと腰の低い柔和な生徒だ。しかし今日は容赦がなかった。
「……炭より黒い泥炭キャラだろ」
 私立黎明学園は初等部、中等部、高等部の4・4・4制という奇妙な制度で出来上がっている。照井も伊集院も10年1組だが、照井は初等部からの生徒であり、伊集院は中学は公立で高等部の二年目にあたる10年生への転入組だ。
「他の高校からも苦情が来てるんだよ。お前の所が飼ってるんだろってなあ。お前のすることは後片付けが大変なんだよ」照井は容赦なく伊集院を指さした。

この「後片付けが大変なんだよ」は照井の常套文句。事実、彼はちょっとしたトラブルシューターだ。
 伊集院は周囲を見回す。生まれついての才覚が鋭く空気を読んだ。
 焦燥に駆られた彼は、タブレット端末をスリープから叩き起こす。これで少しは話題を勘違いすることを祈る。
 ちなみに黎明学園は女子が全体の三分の二を占める上に、他の学校に比べて圧倒的にレベルが高い。結果的に伊集院にとっては他校は勿論、学内も「狩り場」の一つになっている。黒い噂は出来るだけ避けたい。
「な、な、照井。大きい声はまずいって。ここも一応教育機関なんだし」伊集院は声をひそめつつ、文字列をノートに叩き込む。(後で学食でアイスクリーム奢るからここは黙っててくれええええm(__)m)
「そんのお! 教育機関の可憐な女子生徒おうっ! ただのカフェだと偽ってえっ」
 伊集院は素早く照井の口を髭ごと鷲掴みにして黙らせた。テニスで鍛えたグリップだけには自信がある。
「おはよう。朝から二人で漫才? 面白かったら次のライブのトークに使うから聞かせてよ」
 現れたのはひと言で言えば天使。
 小柄でスレンダーな身体にフィットした白いマイクロミニのニット・ワンピースは、細い腰のくびれを強調し、白いオーバーニーソックスがカモシカのようにしなやかな脚を包んでいる。短めの肩に揺れる巻き毛は元々金色なのにピンクとラベンダーのメッシュが入っている。小柄だけど顔が小さく、その分瞳がびっくりするほど大きい。薄めの碧眼がますます人間離れを加速させている。マイクロミニからは十二星宮のケンタウロスや白鳥がプリントされたショーツがちらちら見え隠れするが、猥雑な感じが全くせず、むしろ可愛く感じさせてしまうのが彼女の奇跡だ。
 まさに羽根を付けるだけで天界に羽ばたきそうな少女。金と銀の粒子を撒き散らしているその姿は、見る者全てを魅了して止むことはない。実際に新宿なんかを歩けばちょっとした惨事を引き起こすハイスペックな美貌だ。学校の上履きだけが奇妙に浮いていた。
「いやいや、由子。ぜんっぜん笑い話なんてないから」


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