想-3
「また連絡するよ。チョコありがとう。嬉しかったよ」
そう言って車を発進させて、しばらく走った道路で路肩に止める。
「くそっ!」
やり場のない怒りと悲しみを
罪のないハンドルにぶつけた。
一瞬、パァーっと大きなクラクションが鳴って
俺はハンドルに突っ伏した。
由布子さんは悪くない。
俺が悪いんだ。
由布子さんに兄貴を思い出させる「ナツ」というフレーズをなぜ出してしまったのか。
いまだに分からない。
「くそっ」
俺は、兄貴の年齢を越した今でさえ
兄貴を超えられずにいる。
今、ココにいない兄貴の残像に全てを持って行かれる。
由布子さんの心は、兄貴にある。
「イヤな男だったら良かったのに。なぁ兄貴」
兄貴は俺の憧れで、自慢で・・・
そして1番嫌いなオトコだ。
嘘だ。
嫌いになんかなれるはずがない
兄貴のせいじゃない。
俺がふがいないからいけないんだ。
薄氷の上を2人で歩いて
氷が割れた湖に俺だけハマってもがき苦しんでいる。
いや、湖だと思った底は泥沼だったか。
そして、そんな俺を見ている由布子さんも苦しんでいるはずだ。
由布子さん、俺、泥にまみれて息が出来ないよ。