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蛍の想ひ人
【女性向け 官能小説】

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「また連絡するよ。チョコありがとう。嬉しかったよ」

そう言って車を発進させて、しばらく走った道路で路肩に止める。

「くそっ!」

やり場のない怒りと悲しみを
罪のないハンドルにぶつけた。

一瞬、パァーっと大きなクラクションが鳴って
俺はハンドルに突っ伏した。

由布子さんは悪くない。

俺が悪いんだ。

由布子さんに兄貴を思い出させる「ナツ」というフレーズをなぜ出してしまったのか。
いまだに分からない。

「くそっ」

俺は、兄貴の年齢を越した今でさえ
兄貴を超えられずにいる。

今、ココにいない兄貴の残像に全てを持って行かれる。

由布子さんの心は、兄貴にある。

「イヤな男だったら良かったのに。なぁ兄貴」

兄貴は俺の憧れで、自慢で・・・
そして1番嫌いなオトコだ。

嘘だ。
嫌いになんかなれるはずがない

兄貴のせいじゃない。

俺がふがいないからいけないんだ。

薄氷の上を2人で歩いて
氷が割れた湖に俺だけハマってもがき苦しんでいる。

いや、湖だと思った底は泥沼だったか。

そして、そんな俺を見ている由布子さんも苦しんでいるはずだ。

由布子さん、俺、泥にまみれて息が出来ないよ。



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