第9章 真っ赤なリース-5
「昨夜未明、千城県七重市において家屋が全焼する事件がありました。中からは大人3人、子供2人の性別不明の焼死体が発見されました。家は千城県県本部に勤める男性の自宅で、調べによると普段から不満を持っていた同じ県警本部の交通課に勤める男性が犯行をほのめかすメモが発見されており、事件との関連性を調べているところだという事です。」
朝のニュース。全国に向けトップ扱いで取り上げられた。当事者である千城県県警本部は事件の対応に追われて慌ただしく動いていた。吉川の犯行をほのめかすメモの存在が、各マスコミは興味を抱き揃って県県警本部に取材に来ていた。
「何かさー、吉川さんが田澤さんの奥さんと不倫関係にあって、田澤さんの奥さんから別れ話を切り出された吉川さんが放火したみたいよ?」
トイレに入った時、署員がそんな話をしているのを聞いた。朱音は何食わぬ顔をしてしっかりと出勤しているのであった。
「田澤さん、本庁に転属が決まってたんだって。それで一家で東京に引っ越す事になってたらしくて、これを機に田澤さんの奥さんが不倫関係に終止符を打とうとした事に逆上した吉川さんの犯行って噂。ヤバいねー。完全に騒がれるわよねー。」
「てかさー、田澤さんもいい女見つけると見境なく手を出したってゆーから、夫婦してどっちもどっちよね。」
「良かったー、田澤さんに狙われなくて。」
「本当よねー。」
そんな会話を聞きながら朱音は思う。
(フフフ、いい女じゃないから狙われないのよ。)
そう鼻で笑った。
朱音がトイレから出て交通課に戻ろうとすると、朱音の姿を見かけた島田が慌てた様子で呼び止めた。
「おい立花!悪いが今日から捜査一課に戻ってくれ!人手が足りないんだ。本部長の許可はとってある。いいか?」
「はい…。」
「じゃあ来てくれ!」
朱音は島田の後ろについて、懐かしい捜査一課に向かった。前を歩く島田の背中を見て朱音は思う。
(島田さん、あなたは私の事を守ってくれたけど、最後は見放そうとしましたよね…。本当にお世話になりました。このお礼は必ずさせていただきますので…。フフフ)
上目使いで島田の背中を見つめる朱音の瞳には、真っ赤なリースが不気味に浮かんでいたのであった。
完